十三番隊舎 入口にルキアは居た
「…此処で待って居たのか?」と尋ねると、「今、出てきたところです」などと言う
冷えてほのかに紅くなった頬をしながら
待たせてしまったことと、一言 謝罪の言葉が出てこぬことと、この娘の聞き分けの良さに、内がざわつくのを感じる
このままではどうしても邸に戻ることが出来なかった
だが、この時間 開いているのは酒処くらいであろう
「少し、回り道をする」
そう言うと、ルキアは ひとつ 頷いて私の後を着いて来た
瀞霊廷のはずれの、明かりも喧騒も殆ど届かない丘の上
この辺りか―と、開けた場所で立ち止まる 此処は夜の散歩の道筋であった
「わ…」
後方から聞こえた声に振り向くと、促すよりも先に ルキアは大きく夜空を仰ぎ見ていた
「凄い…綺麗」
冷たく澄んだ空気は一層、星の瞬きを鮮明に地上へと届けている
陽の光とも、月の光とも違う、それは一瞬一瞬の煌き
「―まるで、星が降ってきそうですね」
うっとりとした 静かな口調に、先程までざわめいていた心が平穏を取り戻していく
「…すまぬ」
「兄様?」
星を見上げていた顔が私に向けられる
「お前の『欲しいもの』が、どうしても―判らなかった」
「え…」
「………“さんたくろぉす”の役目を果たすことが出来なかった…」
何と間抜な告白だろうか と自嘲しながらルキアに向くと、
傷付いたような、でも不満の色が映った瞳が見上げてきた
「…兄様も、私のことを“子ども”だと御考えだったのですか」
「そうでは無い」
ただ、喜びで染まる表情(かお)がみたかったのだ
いつもよりゆったりと帰り道を ふたり 歩く
この娘好みの甘味処へ寄る
今度は『樅の樹』に飾り付けを施す
他愛無い話を緩りと交わす
今日 明日に限らず、私が傍に居ることでこの娘の表情が少しでも不安で翳らぬのなら…
『欲しいもの』が判らぬならば、せめて、それだけでも と思っていたのだ
私が口を開く前に、見上げられた瞳が笑みの色に変わる
「―私はちゃんと とっても素敵な、素晴らしい贈り物を頂きました!」
私が腑に落ちずにいると、ルキアはちいさく笑う
二人の間で、白く染まった息が揺らめいては消えていく
「こんな夜遅くに兄様とふたりで外出して、兄様のとっておきの場所に連れて行って頂いて、兄様と星をみて、それから―…」
言葉の途中でちいさな体を傍に抱き寄せる すっかり冷えてしまっていた
「それから…何だ?」
銀白風花紗を外し、ルキアに掛けながら問う
「…それから、……私はお誘いを頂いてからとても楽しみで、」
「…」
「兄様が私の為に考えて下さったこと が私は」
私の手にルキアの手が重なった
「これでは兄様が御風邪を召されてしまいます」と背伸びをしながら、ルキアに巻ききれなかった紗を私の首に掛けようとする
されるが侭にしている私に満足そうに頷いたあと、出過ぎた真似を と感じたのか、直ぐに気不味そうに手を離した
その手が離れていくことに、僅かに名残惜しさを感じ 捕まえる
ふつり と呑まれて途切れる白い息
動揺を誤魔化すようにちいさくその唇は「兄様」と動く
「あ、あの―“さんたくろーす”って…兄様も“くりすます”を御存知だったのですね」
沈黙を断ったのは、先程の私の“告白”に関する話題で、気不味さはルキアから私に移る
「…ああ」
「意外、でした」
そう言いながら悪戯な笑みをこぼすから、つい私もからかってやりたくなる
「……そろそろ帰らぬと“さんたくろぉす”が来てしまうのではないか?」
「っ…知りません!」
ふたりの頭上で、ひとすじ 光が流れるように走ったけれど
それには気付かずに…
何て不器用なメリークリスマス!!
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