初めてルキアの顔を はっきりとみたのは、
自分でも驚くことに
朽木家に迎え入れてから四十余年経った

つい最近のことである





私の名を呼ぶ その唇が、やわらかな弧を描いていること

言葉を紡ぐたびに、頬が 薄紅 桃色 桜色…と鮮やかに色を変えること

頷き 微笑み 瞬きするとき 揺れる睫毛が光を纏うこと

私という事象 総てを拾おうと向けられた意識が感じられる視線


あの騒乱の後 あの丘の上で みた

沈み行く夕陽を受けて、光る 薄っすらと残った涙の筋に縁取られた
深く 澄んだ 紫みの冴えた青の瑠璃色を



この娘の表情を形作り 彩っていたものを
私は長い 永いあいだ 知らずにいたのだ





「あの…兄様?」

何も言わず じっと無遠慮な程、自分をみていた私に
戸惑いながら首を傾げる義妹の左頬に触れる


「え、あ のっ」
「勿体無いことを していたのだな…」
「え…?…?」


また ひとつ

困惑すると 眉が此れ以上無い程まで下がり
瑠璃色の瞳が ゆらゆら と水面のように揺らめくことを 私は新しく知る






璃色を愛でる



未だ 私が知らない この娘の様を  ひとつ ひとつ 知っていく 喜び