アーモンドのような形をしたアナログ時計は15時を指している
本来なら もう指輪の交換も、婚姻宣言も終わっている時間だ
全く 見たことの無い景色が窓に映っては後ろへ流れていくのも、まるで他人事のように
レザーシートにからだを預け、手に違和感を与えていたグローブをはずした
ずっと無言でいる白哉兄様に 私から話かけることも躊躇われて、オーディオから流れるスペイン組曲第5曲に耳を傾けた―兄様 らしく 無い曲
白哉兄様らしからぬ 行動…一体、
「何故 と考えているのであろう」
いきなり考えを言い当てられ 驚いて兄様を見ると、兄様は真っ直ぐ前を見ながら
「―私にも、わからぬ 何故 このような…」
ゆるやかに車は止まり、兄様は私に降りるよう促した
ドレスの裾に気をつけながら、芝生のうえに降り立つと、
空と海の境界線が曖昧なほど澄んだ青が其処に広がっていた
緑のなかには、ところどころに白い百合が咲いている
「すごい…気持ちいい ですね」
「ああ、…………ルキア」
名前を呼ばれて、兄様のほうへ向き直ると
「―っ!」
ひときわ 強い風が、ヴェールを さらっていってしまった
「……あ、」
青にどんどんちいさく溶けて見えなくなっていく
「…ブーケも、ヴェールも無くなって ドレスも汚れてしまって…とても花嫁とはもう呼べませんね」
と、冗談めかして呟くと
「…構わぬ」
と、静かな返事がかえってきた
「…私は構わぬ だが、お前は」
「…私 ですか?」
「私が決めた結婚(こと)とはいえ、納得していたのであろう」
「え…、あ」
確かに、今回の結婚は 兄様の御仕事の関係で決められたことで、納得はしていた のだけれど
「…ほっ としました 私は何処かで、諦めていましたから」
「諦め…?」
「はい 兄様の御役にたてることはとても嬉しかったけれど…」
「―役に、たつなど 何故」
「…だって 兄様に、いつまでも御迷惑をかけるわけに―っ、」
「いつ、迷惑 と言った」
「に いさま」
掴まれた腕が熱い
「迷惑など―」
白哉兄様は怒っているような、それでいて哀しそうな 初めて見た表情をしていた
「では、では白哉兄様………私は、まだ 朽木ルキア でいたいと我侭を申し上げても宜し…」
「―それは、私の我侭だ」
「?」
そっと、私の腕を放した手をそのまま私の前に差し出される
「これからも あの邸で、私とともに 過ごして…くれぬか」
風が 幾分かやさしくなって、まわりの百合を揺らす
私は今度こそ 迷い無く、目の前の手を とった
その手をとって いつまでもいっしょに
『絵壺』002の“奪還(と書いて かけおち と読む 笑)”のその後を勝手に きっと白哉兄様は手放す直前になって総てをひっくり返してルキアを“奪還”するんじゃないかと(笑)
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