暗闇には雨音と、自分の溜息が溶ける
…眠れない
先程から、何処か からだの置き場所が無く、
寝返りをうってみても、
頭から布団を被ってみても、
感覚は更に冴え渡ってしまう
雨の音は頭のなかまで響いてくる
半ば諦めて―何に対してかの諦めかは自分でもはっきりとはしないが―、
布団から出て、枕元に備えてあった盆の上の冷茶に手を伸ばす
何処に何が在るのかはわかるくらいに目は闇に慣れていたが、
それでも、雨の夜がつくりだす濃い闇には“なにか”が潜んでそうで、私は思わずちいさく身震いをした
…兄様は、もうおやすみになられているのだろう…
そうわかっていても、私の足は廊下に面した襖の前まで動いて、
私の手は引手にかかり、開け始める
しかし流石に、自分は何をしようとしているのか と我に返り、
また私の部屋以上に、廊下が暗いことから、慌てて再び襖を閉めた
先程よりも、雨音は大きく感じられて、
ちいさな私は途方に暮れる
襖に背を預けて、両の手で顔を覆った瞬間、
「…ルキア―起きているのか?」
突然、静かな声が襖の向こうから聞こえたことに驚かなかったのは、
どこかでそのひとのことを、求めていたからなのだろう
そろり…と、引き手に手をかけると同時に、むこうから襖が引かれた
「…眠れなくて、その…」
降ってくる視線を感じながら、両の手の指を絡める
「…怖いのか」
優しさと、ほんの少し揶揄の混じった声音が聞こえたと思ったら、私は兄様に抱き上げられていた
「…っ兄様」
戸惑う私を余所に、兄様は帷を開けて私を布団の上に降ろす
「怖いなら、灯りを燈せば良かろう」
「―怖くなど、ありませぬ」
行灯を引き寄せる兄様に少し強く告げると、僅かに笑われたような、そんな気がした
「…いつまで、子ども扱いをなさるおつもりですか」
拗ねた声音に、更に自分を子どもだと自覚させられて、慌ててそっぽを向く
しかし、くい と兄様の手によって再び正面へ顔を向かされ、
兄様と視線が搗ち合った
「子ども ならば、このようなあやし方はせぬ」
「…っ!」
いつの間にか、夜着の帯は解かれて、
暗闇には熱を孕んだ互いの吐息が溶ける
あんなに響いていた雨音は、煩いくらい逸る私の心音に掻き消されていった
雨に紛れて夜這い兄様
本当はシリアス方向で走っていたのですが(海燕殿や一護交えて)、苦しくなって路線変更。
兄様で糖度高め裏 というと、何かと手が早くなるから困ったものです…(笑)
裏漬け 目次