肢体(からだ)が揺れるたび ひらり ひら と花が舞う
弥生の半ばを過ぎると、其れまでの梅に代わり 桃の花がぽつり ぽつり と濃い桃色が朽木家を彩り始める
其の桃の木々が花開けば 広大な庭の一角であれど、まるで其処が彼の桃源郷のような夢心地すら覚えるのだ
卯月にある桜の為の花見とは別に 其れよりはやや内輪めいたものであるものの、
花開けば人集う というように 観桃の宴は例年 行われている
陽が在るうちは野点で和やかに 日に色濃くなる春のあたたかさを喜び、
そして夜は 月灯りと篝火で匂いたつ桃の花を 杯を満たす酒に浮かべ 楽しむのである
陽が落ちて どのくらいになるであろうか
其の判断がつきかねる程 暗闇は灯りと融け合い、独特の空間を創りあげていた
「失礼致します、ルキア様…」
取留めの無い話を交わしていた相手から、三度目の酌を勧められ 受けようか否か迷っていたところへ、清家がルキアを呼び止めた
「白哉様が御呼びで御座います」
「あ、はい …申し訳御座いません 失礼致します」
清家に答え、話し相手に頭を下げ 振り返ると、義兄が此方を一瞥し、歩き始めるのをルキアの目は捉えた
袂を気にしながら ルキアは人の合間を潜り抜け、漸く白哉に追い付いた
「兄様、御用事はどのような…」
「…顔色が悪い 着付けが辛かったか」
「え…」
そういえば 今朝、茶を点てたり 歩き回るからといって、いつもよりは帯をきつめに締めたのだ
あまり 物は口にしてはいないが、辛くなってきていたのも事実ではあった
ほんの僅かに苦しい胸に手をやりながら、ルキアは義兄のやさしさに嬉しくなる
しかし、
「兄様、其方は―…」
白哉の向かう先が屋では無いことをルキアが口にした瞬間、ルキアの手は白哉に強くとられた
「兄様!あっ」
押し付けられ 思わず手をついた ざらりとした感触は、大きな桃の木のものであった
ルキアが状況を整理しようとしているうちに、しゅる、と擦れた音をたてて、帯締めが地に落ちた
「兄様!?何を…!」
ルキアの戸惑いの言葉を余所に、白哉は今度は花のように咲き開く帯を難無く解き始める
「嫌、駄目です…こんなところで!」
ルキアは身を捩ろうとするが、腰を強く捕まえられている為 自由に身動きがとれず、反対にその抗う動作は帯が緩くなるのを微妙に助けた
「―っあ…!」
弥生の半ばとはいえ夜はまだ冷える
着物を捲り上げられ、その冷気が脹脛、太腿とじわじわ浸していくのを覚え、ルキアはびくん と身体を竦ませた
まだ辛うじて残っている帯の辺りまで露にされ、ぐい とやや乱暴に引かれたかと思った 次の、瞬間
「や、ぁああぁっ!に、…っさま!!」
予想もしていなかった展開に、身体と心に引き裂かれるような痛み
「…もう とうに熟れておると思ったのだが…このように紅をはらんで」
つつ…と背筋を指で撫ぜられて、痛みに震えていたところへ一滴の甘さがやってきた
それは じわじわと奥底の快楽を呼び覚ますには充分で
「ん ぁあ、やぁ…っはぁ」
「慣れてきたか…」
そう呟くと白哉はぎりぎりまで身体を離し、ルキアの片足を持ち上げ向きを変えさせる
今迄 木の幹に必死にしがみ付いて、無理矢理の痛みに耐えていた為か、掌は所々 軽い擦り傷を作り、瞳には涙が溜まっていた
酒がはいっている為か、泣いた為か、漸く襲ってきた快楽の為か、それとも桃の灯りを映しているからか
ルキアの頬は紅を差し過ぎたかのように紅潮していた
「に さま、兄…さま…ん、」
手で頬に張り付いた髪を払ってやり、手の傷に舌を這わせながら、
「私の傍を離れるな そう 言った筈だ」
「!」
客人方に酒が振舞われ始めたとき、義兄が「傍に控えていろ」と言っていたのをルキアははっきり思い出した
その後、白哉が客を相手にルキアには解らない話を始め、少し距離をとっていると お酌を勧めてきた青年がいて…
ルキアが白哉を仰ぎ見ると、彼の瞳のなかに嫉妬の一片がゆらり と垣間見えた気がした
「…申し訳 ありません―兄様」
両手で白哉の両頬を捕え、軽くその唇を食み 深く舌を差し込む
「んん…ぅん…ん、」
「…っ、」
唇は其の侭に、身体の重みを前方に 白哉に預けると、
彼はルキアの考えに気付いたのか、地にゆるりと腰をおろした
「兄様っ、兄様…っ」
此処が外で、少し離れたところには人が居るのに
ひらひらと夜風に桃の花弁が降って、そのことを麻痺させる
でも、白哉兄様
私 の、此の身を紅で染め上げるのは 貴方だけなのです…
遂に、外…で す
いやほらあたたかくなってきたしね…って言い訳が既に変態さんの域に達してる…
こういうお酒の席では兄様の管理とそのお仕置きは一層厳しくなるんですよきっと
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