身体にかかるは、振袖の重みか 私の気持ちの沈みか
机向こうで此方と向き合っている男が何かを喋っているが
私の耳には殆ど届いてはいない
私の視界は今 目の前にある事象よりも
この後に用意されているであろう場面が靄となってかかっていた
そして意識は常に、私の隣に座っている白哉兄様に傾けられている
「どうであった」
私の帯を解きながら兄様は問う
実に 愉しそうに
「どう…というのは? …ぁ」
冷たい手が着物の襟元をかき分ける
「今回の相手だ」
背後から羽交い絞めにされているので、兄様の表情はその声音のみではよみとれない
「よく…っん、わかりません…」
仕方無しに身体の力を抜くと、するり と袖が腕から落ちた
「…何処と無く、“奴”と似ていたな」
「あ…やっ」
裾から滑り上がってくる指の所為で、腿が露になる
その行く先に意識が向いて、びくり と身体が震えてしまう
「―初対面だというのに、図々しいところなど…」
「んぅ」
首筋にも歯をたてられ、身体の芯に微かにぞくぞくと奔るものがある
兄様の手指の動きが、私の全身の感覚を翻弄し始めた
「元 十三番隊副隊長を思い起こさせる」
「ゃ…あ、」
耳朶を甘く咬みながら言葉を注がれるのだから
私の意識に従わず、声と吐息は口から淫らに零れる
今回で 五回目 になる
兄様が選んできた相手と食事をし、格式張ったやりとりを事務的にこなす“見合い”
毎回何処か雰囲気が、恋次や浮竹隊長、そして海燕殿など、私の親しい人達に似ている者と引き合わされ
そして朽木の邸に戻ると、こうして“査問”を受ける―兄様に抱かれながら
このとき兄様は必ず、私のうしろから 抱く
だから私には兄様の真意なんて解らない
兄様の指が一本、私のなかにはいってきて
“見合い”から“閨”への大掛りな舞台構成の裏に在る意味を追う思考を払い除けた
勿論、瞼を一瞬過った幼馴染や上司達の面影も
「っ兄様、はん…っ 兄様…あっ」
一旦熱に浮かされてしまうと
後は憑かれた様に快楽を貪る
羞恥など 一回目に棄てた
過去を偲ぶ術など 二回目に忘れてしまった
罪悪感など 三回目に感じるのをやめた
四回目に 自ら求めることを覚えた
目の前で光がはじけ、固く瞳を閉じる
棄てられない様に
往く先を棄てた私を少しでも理解って欲しいと
必死に腰をふる義妹を
満足気に見やる兄様に
私は決して気付くことは 無い
後日、これまでと同様に 兄様伝で今回の“見合い”の幕がおろされた
まわりくどい兄様と、すり込まれルキア
捻くれたふたりの関係が書きたかった筈なのに、“最中”という難問にぶち当たり
半ば私自身浮かされて書き殴ってしまいました…
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