まだ仄暗い辺りの様子を布団の中から伺う
はっきりしてきた意識と共に外気の冷たさを感じる
羽織を肩に掛けながら起き上がり時計をみると、卯の刻六つを差していた
音をたてずに廊下へと続く襖を開けると、いつもは聞こえてくる炊事場からの音は無く
此処が屋敷の中というよりは音の無い世界に感じ、冷気もあって小さく身を震わせた
ふ と今日が一月一日だという事を思い出し、昨夜の酒が抜けていないのかと拳を額に当て笑う
この時刻に目が覚めたのも予感があったからなのか
折角だから日の出をみようと思い立った
庭へ踏み出すと屋敷の中より更に空気は澄んで冷たかった
冬の庭は色は無いが、早起きな小鳥のさえずりが聞こえてくる
庭の石に西を向いて座り、手に息を吹き掛けながらじっと待つことにした
半刻が過ぎ、西の空がほんのり白くなり始めた―そのとき
私の背後の空気が更に澄んだ
小鳥が、飛び立った
「兄様…!」
「何をしている」
私は慌てて石から立ち上がった
兄様は私と同じく、夜着に羽織姿であった
「あ、えっと…日を…」
言葉を紡ごうとしても、唇が震える
冷えてしまっているからか、―もしくは緊張からか
言葉を探す私と、何も言わない義兄
新年早々、呆れられてしまったやもしれぬ…
思わず手と手を握り締めた
「…冷たいな」
与えられた温かさは私の悴んだ両の手を包む兄様の右手だった
さっきまで聞こえていた小鳥の声はうるさい私の鼓動に掻き消されていく
重なった手を じっ とみるしかない私はあることに気付いた
震えているのは私の手だけではなかった
兄様を見るといつもの冷静な表情の中に微かな戸惑いをみつける
「兄様、」
そう言いかけたとき、二人を光が包んだ
「日が…」
そこで私はまた言葉を見失った
だってそれはあまりにも眩くて
その光はとても澄んでいて
輝きはみるみるうちに大きくなって
新たな はじまり を感じさせた
「見事だ」
兄様が一言呟いた言葉に私は頷くしかできない
こんなに見事な日の出を今迄にみたことがあっただろうか
「―何故泣く」
知らぬ間に私の頬に伝うものがあった
「とても素晴らしいことだと、思ったのです」
私の目尻を大きな手が静かに拭う
無事 新しい年を迎えることが出来ました
新しい年の日の出をこの目でみることが出来ました
なにより、貴方と一緒にこの はじまり を迎えることが出来ました
「明けましておめでとうございます、兄様」
今度は私が兄様の手に両手を添えて、真っ直ぐに兄様を見上げながら言った
手はどちらももう震えてはいなかった
「明けまして、おめでとう」
兄様は一瞬の眩しそうな表情のあと、穏やかな声で私に返して下さったのだった
「明けましておめでとう」と仰る兄様というのが何故か想像出来なくて、最後がなかなか締まらなかったです(そして結局諦めに至った 逃)
私が実際にみた今年の初日の出はとても神々しくて、とても有難いなぁ という気持ちになれたので、朽木家にも 新年のはじまり を感じて頂こうとした次第です
この二人は年を重ねる毎に各自でお互いに歩み寄ろうと目標をたてていたりすると良いななんて妄想が出来ます(笑)
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