『本の森』というのは此の様な処を言うのだろう―
ルキアは周囲を見渡しながら思った
壁は全面、書籍で埋まっており、規則正しく本棚が並んでいる
ぼんやりと、しかし本を読むには充分な明かりが辺りに灯されており
隅には畳の間と文机があり、ひっそりと読書を行うには最適な空間が備えられていた
何故書庫に来たのかというと、朽木家所蔵の古書を数点借りたい と浮竹に頼まれたのだった
ルキアは滅多に書庫など来ないこともあり、物珍しさもあって暫く本の数の多さを眺めていた
目の前にそびえ立つ本棚は壁の様だった
下段にあった数冊は集めたものの、小柄なルキアでは、上段の棚に届く訳もなく
先程使用人に、脚立はないか と聞いたところ、探してお持ちします と言われたので、少しの間待つことにしたのだった
書庫の中は静かで、暑くもなく寒くもない
ぺたん と床に腰を降ろし、手持無沙汰に手元にある本をぱらりと捲ってみたが、引き付けられる内容ではなかった
ぱらぱら…と頁を送ると、古書特有の匂いがする
―コトリ と音がして顔を上げると、脚立を持った義兄が立っていた
「―兄様!!すみませぬ、御手を煩わせるような…」
慌ててルキアが立ち上がると
「良い、書物を探しに来たついでだ」と白哉は脚立を彼女の傍へ置いた
「…有難うございます」
礼を言って、脚立に足を掛ける
「―落ちぬ様…」
「高いところに登るのは慣れていますから」
戌吊でよく木登りをしていた事を思い出し、「ふ…」と笑う
「…そう言えど、お前は時に危なっかしい」
白哉はそう言って顔を反らし、「ふ…」と息を洩らす
「……気を付けます」
からかわれている―そう気付いて、ルキアは不満を言葉に含ませた
…ぱらり …ぱらり
時折、頁を捲る音以外に音はない
脚立に座ったルキアは…ちら、と斜め後ろを見た
自分の目線の少し下に、牽星箝を外した艶やかな黒髪がある
いつもは見る事など出来ぬ、義兄よりも高い目線―
「…………兄様」
その呼び掛けに振り向いた白哉は、額に柔らかな感触を感じ、僅かに瞠目した
「いつもとは逆の目線ですね」
ルキアはすとん と脚立から降り、白哉に背中を向けた 表情は見えないが、耳が紅い
「………………………」
「いつものお返しです!!」
頬を染め、くるりと悪戯っぽい笑みを残し、本を両手いっぱいに抱えながら、ぱたぱたと彼女は駆けていった
白哉は額に手を当てたまま、目線を文字に戻すも、内容は全く頭に入らなかった
兄様はさり気なく、ルキアが落ちても受けとめれる位置をキープ(笑)
『いつも兄様は不意討ちなんだ…』と自分で書いておきながら、妙に気恥ずかしかったり
身長差があると、目線を合わせたりする時などなどなど…、どちらかが屈んだり、爪先立ちしたり、何か可愛いなぁ と思います
図書館で脚立を借りてよじ登ると、何だか自分が偉くなった様に感じたりします(中身何も変わらないのに (笑))
しかし兄様、脚立が似合わない!!!!(何言ってるんだ)
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