ルキアが風邪をひいた


「…隊長、あの―ルキアの調子は…どうッスか?」

この間押し付けた書類を小忠実にも仕上げて、
私のところへ提出に来た傍ら恋次が尋ねてきた

「…今はまだ、屋敷で大事をとって休んで居る」
「熱は…?」
「…」

ルキアを思ってくれるものが居るのは、有難い事だと思う、
…思うが、奴の『思う』は厄介な事に『想う』に値するものであろう。

そう考えると此奴と話す事が鬱陶しくなってきた

「……大事無い」
「そう、ですか…―風邪って長引くと厄介ッスよね、
人に貰ってもらうと早く治るって言いますけど、ホントですかね?」
「―そろそろ仕事に戻ったらどうだ、恋次」
「あ…ハイ、失礼しました…」


部下が消えた入り口に向かって溜息をつく
まるで自分の中に沸いた好ましくない考えを吐き棄てる様に




「おかえりなさいませ、白哉様」

屋敷へ足を踏み入れると感じる違和感
いつも使用人達より先に私を出迎える義妹の姿を、
風邪で伏せっている現状を頭では理解しつつも意識してしまう

「…ルキアは?」
「お部屋でお休みになられています 先程からまた、熱が上がられた様で…」
「そうか」

「お薬はお飲みになられました ―では私は失礼します」

向かう先は自室では無いことを察した清家は用件だけ告げると下がって行った



音をたてず襖を開ける

几帳が陰になってぼんやりとひとつ灯りがあるだけの部屋は、
いつものこの部屋の主の明るさとは対極に近い静寂を保っていた


ルキアは胎児の様に丸くなって布団に包まれていた
寒いのか と思い、黄色がかった灯りの色に染められた頬に手を添えると、
熱はまだひいてはおらずほんの僅かに汗をかいている
微かに熱をもった息が手にかかる


『人に貰ってもらうと早く治るって言いますけど、ホントですかね?』


昼間、赤毛の部下が言った言葉を思い出した

「…何処から貰って来たのだ」
返事は期待せず、ほんの少し責める様に文句を投げ掛ける



頬の手を するり と顎に滑らせて、そのまま屈み込んだ


口内は更に熱を持っていた

舌に伝染する

「ふ、…っ」
ルキアの鼻から息が抜けた事に気付き、姿勢を元に戻す

手に、唇には完全に彼女の『熱』が伝染っていた





伝染って、伝染して、伝染されて


すべてを共有して、すべてを独占したい






ルキアの事が気になって気になってしょうがない恋次と、
ルキアの事になると兄様らしからぬ兄様が出てしまう兄様(…何が言いたいのか)。
この二人のルキアに関してのやりとりが妙に気になって、好きです
誕生日小説に書いた『やさしさめぐり』と時系列は一緒なのですが
…お祝い期間中に間に合わなかったものですはい…

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