この香りは―…
透き通る 少しばかり冷たい空気
そんな秋の日の道のこと
小さな橙の花が少しずつ 少しずつ 咲き始めていた
その 甘い香り に誘われ、記憶は一気に流魂街 戌吊へ―…
「ルキア!美味そうなもの見つけたぜ!!」
「本当か!?やったな恋次!」
あの頃、恋次は食べるものを見つけると、必ずルキアにも教えにきた
案内してくれる恋次の後に付いて、山の坂道を駆け上がる
「ルキア!もうちょっとだ!!」
「ああ!」
息があがる
空気をたくさん吸い込む
…―何だか甘い いいにおいがしてきた
「ほら、あれだ!」
恋次が指差した先には橙色の木があった
更に近づくと、その橙は小さな花だった
近寄る毎に濃くなる甘い香り
「美味そうな匂いだろ?」
「ああ」
二人は顔を見合せ、砂糖菓子の様な花をひとかたまり、口へいれる
「……」
「…甘くない」
二人はしかめた顔を見合せ―吹き出した
「何だこれは!全く甘くもないし美味くもないぞ!!」
「確かにそうだけどよ、オメーも何とも思わずに食っただろ!!」
「それは甘いにおいが…」
「俺も このにおいにまんまと騙された」
すぅ…と胸いっぱい吸い込むと、甘い空気が肺を満たす
「ごめん ルキア」
「…何を謝るのだ、私は満足だ 腹は満たされなかったが、美味かった」
笑顔で言うと恋次は
「…なんだそれ」
と がしがし 頭を掻いた
「気を取り直して魚でも獲りに行こう!」
ルキアが恋次の袖を引っ張り言うと、恋次も不器用な笑顔になった
指先で橙色の花に触れ、手のなかに収める
花を一房、唇に近付ける
「甘くない…」
眉をしかめた後、くすり… とルキアはひとり笑う
変わらない香り、忘れない記憶
「相変わらず、甘くないぞ……恋次…」
そう呟いたルキアの声は甘い風に攫われていった
甘い香りがすると思ったら近くに橙色の花が咲いていて、ああ 秋だなぁ〜と 風流な気分になったのも束の間、食欲の秋になってしまいました
金木犀の花って食べれそうな感じがしませんか?
砂糖菓子みたいに可愛くて甘い香りがして思わず口に入れてしまったことはいい思い出となっています(爆)
読んでくださり 有難うございます!
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