ひら ひら ひら、と舞う葉の間を風呂敷包みを抱えながら、六番隊舎への道を急いだ。



「あ、ルキアさん こんにちは」
迎えに出てきたのは理吉だった。
「こんにちは、あの…朽木隊長は…」
「朽木隊長なら今日は非番だと思うのですが」

まだ戻られていないのだ。
私は理吉に理由を話し、隊主室に通してもらった。


主の居ない部屋は一層、静かだった。


はじめは風呂敷包みを机の上に置いて座っていたのだが、重箱の中身が走った為に崩れていないか気になりだして、
そっと風呂敷を解いて一段、二段と中身が無事なのを確認して元に戻すも、言い様の無い後悔と不安が襲ってきた。


兄様に、これ を食べていただくなど、鳥滸がましいのかもしれぬ…


落ち着いて座っていられなくなって、一先ずお茶の用意に取り掛かることにした。

湯呑と急須をのせたお盆を持つ手がほんの僅かに震えている。

私は歩みを止めて、深く 長く 深呼吸をした。



隊首室に戻った途端、お盆を落としそうになった。

「―あ、兄様っ!?」

いつの間にか兄様が戻られていたことに驚いたこともある。

「お戻りになられたのですね―っ、それはっ!!」

更に私を焦らせたのは、兄様が重箱の蓋を持っていたことだった。


「これはっ、その…―駄目です!」


思わず出てしまった言葉にますます私は自分で混乱する。

兄様は何も仰らず、ただ私を見つめている。

「持ってきたものの、やはり兄様には、兄様の…御口には、これは―…」


情けなかった。

どうしてこんなことになってしまうのだろう…


「…それを、貰えぬか?」


降ってきたのは静かで優しい声。

「兄様、そんな…本当に」

兄様は戸惑う私を制し、玉子焼きを口に入れてしまわれた。
「…美味い」

「…あ」

どうしたら良いか分からず俯く私をおいて、兄様は箸を次に移す。


「すみませぬ…此の様なものしか、作れず…」
「私は 美味い と言ったのだ」

すっぱりと、しかししっかりと言われて、私は今日はじめて兄様の顔を真っ直ぐ見たように思う。
我ながらなんて単純なのだろう。


「この紅葉はどうしたのだ」

「…あ、実は」
使用人が夕の膳に使う為に持って来た紅葉を貰った経緯を話すと、兄様に僅かに笑われた気がした。


少し不満気に兄様を見るも、この人のひとつ ひとつの言葉、しぐさが嬉しくて、私は頬が紅く染まるのを自覚したのだった。










『白ルキ紅葉狩り話 第三弾』。
「紅葉 染まるころ 橙」のルキア視点です。
あのお弁当が出来た経緯が書きたかったので、あまり中身的には変わらないな…なんて考えながら勢いであげてしまいました(笑)。
ルキアが兄様に対して一生懸命 何か をするのが書きたかったのが本当のところです。


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