六番隊隊主室へ戻った白哉は扉にもたれた。
こんなやり場の無い苛立ちは今迄に無かった。
小さく息を吐き出して ふ と気付く。
…ルキア?
微かではあるが、感じる彼女の霊圧。
辺りを見回すと、執務机の上に置かれた風呂敷包みが目に入った。
風呂敷を解くと重箱が現れる。
蓋を開けた白哉は瞠目した。
眩しい黄
鮮やかな橙
燃えるような紅
美しく色付いた紅葉の葉が重箱の黒を彩っていた。
「―…」
二段目を開けると、小さなちいさなにぎり飯と不恰好な玉子焼き、
そして京芋や人参、いんげんの煮付けが きちん と詰められていた。
「―あ、兄様っ!?」
声がして振り向くと、ルキアが急須を持って立っていた。
「お戻りになられたのですね―っ、それはっ!!」
「…開けて、しまったのだが―…」
傍の机に急須を置いて、ルキアは慌てて白哉と重箱の間に立ちふさがった。
「これはっ、その…―駄目です!」
困った様にこちらを見上げるものだから、白哉も動けなかった。
白哉がルキアを見つめると、彼女の眉尻は益々下がった。
「持ってきたものの、やはり兄様には、兄様の…御口には、これは―…」
徐々に小さくなる声
涙の混じり始めた声
「…それを、貰えぬか?」
沈みかけた空気に響いたのは、その一言。
「兄様、そんな…本当に」
止めようと伸ばされる小さな手をやんわりと片手で制し、白哉は箸で玉子焼きを口に運んだ。
「…美味い」
「…あ」
傍で不安げにしているルキアを置いて、箸をにぎり飯に移す。
中身の具は大きな梅であった。
「すみませぬ…此の様なものしか、作れず…」
「私は 美味い と言ったのだ」
その言葉にルキアは俯いていた顔をあげ、白哉はその様子に僅かに頷いた。
「彩り豊かな弁当だ」
「…紅葉狩り ですから…」
ルキアは一段目の重箱を覗き込みながら、悪戯っぽく微笑む。
「…紅葉狩り だな」
こんな日も悪くは無い
ルキアが淹れてくれた緑茶に口を付けながら、白哉はようやく穏やかな気持ちで秋の色を感じたのだった。
『白ルキ紅葉狩り話 第二弾』。
なかなかお弁当片手に手を繋いで出掛けてくれませんこの二人。
紅葉もひらひら落ちてしまいました(笑)。
公式の小説の方でもルキアは寸胴鍋料理専門ということで、玉子焼きとかちょこっとしたものは苦手そうだな なんて勝手設定です。
手もちっちゃそうなのでちっちゃなおにぎりが出来そうです。
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