ひらり ひらり ひらり

視界の端を舞うもの ひとつ


かさり…と小さな音をたてておちたそれは紅葉の葉であった。





「…朝が、冷え込んできましたね」

「おはようございます、兄様」の後に言葉が続くのは初めてだった。

「ああ」だけでは勿体無いと思い、何か返す言葉はと朝から思考を巡らせたが
出てきたのは 「…そうだな」 のひとこと

それでも彼女は少しはにかんでいた。


朝食を終え、箸を置くと
「…あのっ、兄様!」とルキアに呼び掛けられる。
「その、本日…兄様は、非番ですか?」
そう言うルキアの膝の上では手がきゅうっと握られている。
「ああ、そうだが どうかしたか…?」
「いえっ、別に 何も…」

義妹は一瞬表情を曇らせた後、「失礼します」と席をたった。



文机に向かい書物に目を通す。
ひやり とした風が頬を撫で、白哉はふと字から目線をあげた。

『…朝が、冷え込んできましたね』
…今朝の言葉が甦る。
ルキアは何を言おうとしたのだろう


いつの間にか、庭はうっすらと夕暮れの気配を漂わせている。

そのとき―「お帰りなさいませ、ルキア様」
そう玄関の方から聞こえてきた。

…出掛けていたのか
文机から立ち上がり、廊下へ足を向ける。

角を曲がったところで、向こうからルキアが歩いてくる姿がみえた。

「…只今、戻りました」

そう言って会釈するルキアの髪に、白哉は目をとめた。

「…紅葉狩か」

ルキアの髪を密かに彩っていた一枚のうっすらと紅い紅葉の葉を捕える。

「…あ」
おずおずと見上げてくる義妹をちらりと見て

「…まだ早い、もう少し待たぬか?…次の互いの非番の日まで」

白哉が葉を指で弄びながら告げると
ぱっ と顔をあげ

「…はい」

とルキアは頬をうっすらと紅に染めた。



―そう言ったものの、お互い 臨時の隊務で結局 共に紅葉をみることは叶わなかったのだったな…

押し葉となった紅葉を指で弄ぶと思い起こされる。



ふと、今秋の互いの非番が重なる日を気にしている自分に気が付き、白哉は小さく咳払いをしたのだった。





距離を図りかねている二人って良いなぁ、と思って書いたものの、私自身が文章を図りかねていますよ(涙)。
『頬染めマント事件』以降、兄様絡みのルキアは頬染めだ! というお馬鹿な方針で行って(逝って)しまっているので、
何だか中途半端な甘さで申し訳ない限りです…
オフィシャルでの仲睦まじい会話が増えることを祈るばかりです。


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