今年初めて降ったのは大雪で
隊務に朝一番の雪掻き作業が加えられる程であった。
「朽木、今日はもういいぞ」
浮竹隊長が資料室の入り口から顔を覗かせたと思うと、その後ろに兄様の姿がみえた。
「浮竹隊長、兄様…」
非番である筈の兄様が此処に居る事に対する私の疑問に気付いたのか、
浮竹隊長は私の腕の中にあった資料の束を取りながらさらりと告げた。
「白哉は俺に用があって来てたんだ。雪も多いし一緒に帰れば良いと思ってな」
にこにこと言う浮竹隊長と、何も言わず無表情な兄様を見る。
「しかし、まだ整理が…」
「本来の仕事は済んでるんだ、気にするな」
「―帰るぞ」
戸惑う私をちらりと見て、次の瞬間には背を向けて歩き始める兄様を、
私は慌てて浮竹隊長に頭を下げてから追い掛けた。
雪は ちらちら と少し舞うだけで傘を使う程でもなかったが、
昼間の日の光が弱い為に積もっている雪はほんの少しも溶けていなかった。
辺りは既に薄暗く、人通りは疎らで、雪が静かに淡い光を放っている。
この白い空間に於いて存在を確かめる手段が、
私の前を歩く白哉兄様と私の足音だけの様な何処か落ち着かない気持ちになり、私は俯いた。
目に入ったのは兄様の足跡。
白の道に真っ直ぐ、規則正しく、左右の足の跡が私の前に続いている。
その兄様の足跡に私の足を重ねてみると、やはり兄様の足跡は大きくて、私の足は小さくて
そのちぐはぐさが面白くて兄様の足跡を辿ることにした。
いつも兄様は私の前を歩いていく。
それは出会った時から変わらず、この真っ直ぐな後ろ姿に、規則正しい歩みに私はいつも導かれていると思う。
―安心できるのだ、とても
「ルキア」
自分の歩幅で歩いていない為か、ぼんやりしていた為か、遅れをとってしまったらしい。
少し先のところで兄様が立ち止まって此方を見ていた。
「すみませぬ、遅れて…」
「―急がずとも良い、滑る」
駆け寄る私にそう言って、兄様は歩みを再開する。
「…有難うございます」
そっと兄様の背に声をかけて、私は再び兄様の足跡を辿り始めた。
不即不離のこの関係
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