「ルキアが倒れたそうッス!―今、四番隊に―…」
恋次が報告を終えない内に、奴に仕事の紙束を押し付け退室させた後、六番隊舎を出た。

外は積もった雪が溶けておらず、空気の冷たさが肌を刺した。






四番隊舎に着くと、執務室に通される。
其処には卯ノ花と―浮竹が居た。


「こちらにどうぞ、朽木隊長」


卯ノ花は執務机の上から数枚の紙を捲りながら、浮竹が座る椅子の隣を指した。
「ルキアさんですが、風邪です。
 今 解熱の為の薬を静脈点滴で投与しています。あと半刻程かかるかしら。
 それから、積もった雪の中に倒れられたので、怪我はありません」

話を聞くところによれば、ルキアは昼休憩時に十三番隊の隊員達に誘われ雪合戦をしていたところ、倒れたらしい…顔面から。


「すまん、白哉。うちの隊の者が無茶をさせた。俺も気付けなかった」
深く頭を下げた浮竹を一睨みし、目線を逸らした。

「朽木隊長、貴方もですよ」

卯ノ花が緑茶の入った茶碗を私の前に置きながら ぴしゃり と言った。

「おそらく、朝から体調は悪かったと思われます。何かお気付きになられませんでした?」
茶に口を付けるか付けないかのところで動作を止めた。

…―そう言われてみれば、今朝のルキアは何処か様子が変であった―様に思う。

小さな声で「…おはよう、ございます…」と告げたルキアを思い出す。
背筋を伸ばし、前を向いた顔は口元が真直ぐに引き締められていた。



「…彼女はやさしい人だから」
茶から視線を卯ノ花に移すと、彼女は優しく微笑んだ。

「気付いてあげて下さい」


母親に叱られた様な、そんな居心地の悪さを感じる。
浮竹も同じなのか、頭を掻いていた。

茶碗を置いて早々に立ち去ろうとすると、
「病室にご案内しますね」
と素早く隣に並ばれてしまった。




病室に入ると、ルキアは白い布団 白い夜着に包まれ其処に横になって居た。
熱の所為か肌はほんのり紅く染まっている。

鼻先が特に赤いのは、雪に触れた所為であろう。


傍らに座っても身動ぎせず、薬で深い眠りに落ちている様だった。


ひたり、と紅に染まった頬に手を添えれば、冷たさが心地好いのか、幾分眉間の皺が和らいだ。


「…すまなかった」


廊下の卯ノ花の気配が遠退いたのを確認してから、私は一人 義妹に告げたのだった。