民家の軒下を雨宿りに借りた。

さっきより雨脚が強くなっている。


僅かに重くなった羽織をずらして、そっと兄様を見上げた。

案の定、何も雨よけになる物を被っていなかった兄様は濡れていて、私は巾着から手拭いを出そうとして―止まった。


兄様の白い頬に掛かる漆黒の前髪から雫が一滴 ―それを長い指で払う仕草が何とも艶っぽくて、暫し見惚れてしまった。


私の視線に気付いたのか兄様が此方を向いたので、慌てて手拭いを差し出した。



「この雨は私の為業だな」


兎柄の手拭いで髪に絡まる雫を拭いながら ふ と兄様が言った。
その意味が解らず、首を少し傾げていると
「慣れぬ事をした故…」
と、此方を少し笑みを含んだ表情で見てくる。
「私の迎え…ですか?」

兄様は肯定の返事の代わりに、私の手に手拭いを戻した。


雨音が更に強くなっている。


「…でも、私は嬉しかったのです」

隊長羽織を目深に、再度被り直しながら告げた。



珍しい貴方の迎え

長い帰り道

突然の大雨

白い羽織

雨に閉じ込められたこの空間

…ふたり



「…時には 慣れぬ事もしてみるものだな」


言葉に詰まった私の頭の上へ、満足気な兄様の声音が降ってきたかと思うと、ふいに肩を抱きすくめられたのだった。


そんな二人の姿を隠す様に、雨は降り続いて辺りを霞ませていた。







雨ではなくて槍(神槍?)が降るよ!!!!な兄様(笑)。
最近めっきり兄様隠居生活気味なので、性格もぼやけてくるってものです(開き直るな)。


朽木兄妹の黒髪は濡れたら艶っぽそうだな〜と、いきなり降ってきた雨に濡れた通行人を車から見ながら思い付いた今回の文章(爆)。
この季節は折り畳み傘が手放せません。




読んで下さった方、有難うございました!

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