「おぉ…」

薄桃色の吹雪の中に少女がひとり 佇んでいた



この日、ルキアはいつもより早めに家を出発し、いつもの出勤経路ではなく、遠回りの道を通って隊舎へ向かっていた
朝、障子から差し込む陽の光がとても柔らかく「惰眠を貪っていては勿体ない」と布団から出たのだった

「こんなに温かくなったのだ、桜は見頃ではないだろうか」と、いつもの経路ではなく、桜並木がある道を選んだ


「今年は特に見事だな…」
花びらを運ぶ風がルキアの髪を揺らす

―と、薄桃色の世界に紅が揺れた
「よぉルキア!何してんだてめー」

「恋次!何故ここに居るのだ?」
いつもは会わない同士、お互い少し驚いた
「ここは俺の通勤路だ」
「そうなのか、っと…」
風が黒髪が薄桃と混ぜる くすぐったそうに髪に指を絡めるルキアを恋次はじっと見つめた


―変わんねぇな、てめぇは…死神目指して、霊術院に入ったあのころからちっとも…




恋次の目の前で、黒髪に赤い袴が揺れる

「恋次、すごいな!ここは!!」

入学式典の後、校舎裏の桜並木が見たいとルキアが言い
折角だから昼御飯を携えて、二人 花見に来たのであった

ルキアは御飯そっちのけで、風が吹くたび降る 桜の花の雨に感動していた



―桜に紛れて消えちまいそうだ…


無邪気に桜と戯れるルキアは、恋次の胸を甘く締め付ける

気が付けば腕を掴んでいた

ゆっくりとルキアが振り返る

「…行かないよ、どこにも…」

―そう言った彼女の笑顔は、桜にかき消されてしまいそうだった


―変わんねぇようで、変わった事もある…そう、今の彼女は桜と共に消えはしないという確信

一度は桜よりも早く散ってしまいそうな危機に陥りはしたが…


―居場所が

―家族が

―仲間が

…―そして彼女の心が、不確かなものではなくなった



「…何を考えておるのだ?」

現に意識が戻って気付けば、訝しげにルキアが恋次を見上げていた

自分が考えていたことなど、恋次が素直に言えるはずもなく

「いや、桜吹雪見てっと…なんてーか…朽木隊長の千本桜で切り刻まれた時のことがよ…ぶっ!」
ルキアの閉じ合わされていた両の手の中身が、恋次の顔面めがけてばらまかれた

はらはらと視界に、紅に薄桃がまとわり付く

「何だ、それは!だが兄様の千本桜は確かに美しいから、貴様にしてはまともな意見だな!」

「…てめぇ、朝っぱらからやってくれるじゃねーか」
「おっと、遅刻してしまう!貴様も遅れるなよ、面白複雑眉毛副隊長殿!!」

そう言うと、ルキアは反撃を開始しようとした恋次の手からするりと逃れ、駆けだす


「…よけーな世話だ」
ルキアの姿が薄桃に紛れて、だんだんと見えなくなっていく


でも今は昔の様に必死に手を伸ばさなくても大丈夫だ


―だってちゃんとここに居るのだから





バレンタイン通り越して花見してます
長くなってしまいました…

実は「桜吹雪から千本桜を連想する恋次」を書きたくてこの話を書き始めました(笑)
文章の不味さはもぅノータッチという事で(逃)

2008.08.26 加筆修正

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