―汚して、
そう 告げているかのような 罪深き 白
私が幾ら抱こうと
其の肌に残した 痕 は、数日経てば 白へと還る
「―っあ…」
「は…、」
弛緩した身体のすべての重みが、私の胸へとおちてきた
この娘の肢体は、一見 磁器のようでいて、
其れには無い 柔らかさと体温と、私に合わさるような弾みをもち、
冷たいようでいて、内は熱く―…
微かに震えるその白い肌に唇をよせて、吸い上げると
くっきりと独占の刻印が現れる
首、肩、腕、背…
時に歯をたて、場所を変え、幾ら残せども
私が以前つけた筈のものは、もう其処には無い
あたかも、私に幾ら抱かれようと、穢されようと、
無かったことに、綺麗なままで、清いままで 此の娘はいる
義妹を犯す私のように、罪深く、黒く、深く 共に堕ちればいい
緋真への罪悪感に苛まれ、己を嫌悪し、世界に絶望し、暗闇に囚われてしまえばいい
そんな衝動に突き動かされ、つながりを解き 近くにあった文箱を寄せると
私の動きに、漸くルキアが意識を戻した
「…兄様?」
灯りの無い部屋の闇に慣れぬ目は、私を捉えることは出来ず、不安に揺れる
私は答えず 手にした筆先から含みすぎた墨汁を、闇に浮かぶ肢体へと落下 させた
「!?」
冷たいのだろうか 落ちた雫はちいさく震える腹から脇へと、黒い線を描きながら伝う
「…」
「兄様、―や 一体」
今度は直接、肌へと筆を滑らす
紙とはまた違う 筆が摩れる感触
襦袢や布団に散った黒とは異なり、滲むことない黒白の境界が肌に浮かぶ
その境界を無くせば、 更に黒で染めれば、
落ちろ、堕ちてしまえと
筆で、指で、掌で 白を黒で埋め尽くそうとする私は、狂気にとらわれているようだ
「兄様 兄様…」
私を呼ぶ声に答えるように、頬に触れると 手に付いていた墨がうつる
触れるたび、汚す悦びが湧きあがり 四肢の隅々まで指を滑らせながら口づけた
「ルキア―」
名を呼ぶと目から涙が伝った
其の雫は、黒を洗い流すように肌を滑っていく
黒を吸い取り、肌本来の白さを取り戻すように
「―っ!」
「…兄様?」
理解っていた
白と黒は 決して 交わることは無い
黒い欲でどんなに塗りつぶしても、その清い白肌は 暗闇のなかで、自ら光を発しているかのようで
私の視界から消えず そして己の闇をまざまざと思い知らされるのだ
毛筆で一番 集中するのが、私の場合 書き始めです 何だか“戻せない 戻れない”と感じてしまうからでしょうか
真っ黒にルキアを染めたいほど共に堕ちて欲しいと思っている そんな兄様→→→ルキアが書きたかったのですが、少々狂わせ過ぎました
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