「朽木、ちょっと」
私が雨乾堂の廊下へ踏み入ったそのとき
障子戸が開いて、浮竹隊長が こそり と顔を覗かせた



「どう されました?」
「いいからおいで」と私の問いに答えを頂く代わりに、中へと招き入れられた

「いや、先程 京楽が来て居てな 茶を用意しようとしたところへ伊勢の迎えが来てしまったんだ」
「はぁ…」
「茶の供に と持って来てくれたんだが―…」

浮竹隊長は如何にも京楽隊長好みの鮮やかな 楓が舞う風呂敷のなかから
宝石のような光沢のある―葡萄を取り出した
「綺麗な葡萄ですね」
「ああ なかなかのものだよ 当の本人は食い逸れてしまったけどな―そこで だ、朽木」
「はい?」
「一緒に食べるか」
「え、良いのですか!? 京楽隊長は…」
突然の提案に私が慌てると、浮竹隊長は悪戯な子どもの身勝手な表情で
「あの伊勢の調子じゃ、戻って来れないよ それに裾分けらしいから、遠慮無く頂こう」
「はぁ」

何処からか早速 取り出した懐紙を差し出された私は、美味しい共犯者になることになった






爪をたてるとその皮に遮られていた甘さを含んだ香りと汁が溢れ出す
口に含めば、予感どおりの甘酸っぱさと瑞々しさに一粒でも充分な満足感
「美味しい…です!」
「美味いなぁ」

浮竹隊長も私も自然と次の粒に手が伸びる

「ちょうど食べようかとしていたときに朽木がやって来たから」
「…役得です」
その言葉で、自分が何故 此方へ来たのか
傍らに置いた四番隊からの預かり物である薬袋を思い出し、一旦 手を清め、其れを浮竹隊長へ差し出した



一粒 一粒、房からもぎるたびに、指先が葡萄の皮の汁で染まっていく

「―何だ 朽木、丁寧に剥いているのか?」
「え、はい」
「皮が薄ければそのまままるごと食べられるぞ」
浮竹隊長を見ると、粒ごと口に入れて皮と種をそれから出されていた

「爪を染めたか? 葡萄色だ」
「上手く剥けなくて…」
剥いていた葡萄から指へ滴った果汁を受けるふりをしながら、染まった指を懐紙で拭った


浮竹隊長は一際 大きな粒をもぎ取ると、
ぷつり とはち切れたかのような音を爪でたてた
そして、
「―ほら」

「…え、」
唇の先に浮竹隊長の長い 指 と、葡萄

その透きとおる果実から、指へ絡む 雫


「…あ」
僅かに開いた隙間から、はいってきた果実と
微かに唇に触れた、爪と指先


「うちのちいさい奴らはこうしないと食べれなくてな」
「―…っ、」


平然と 今度は自分の口に葡萄を運ぶ浮竹隊長は、私だけを動揺のなかに置いてけぼりにして
口のなかにある、とても甘い果実を噛みのみ込む術を私は知らない


「何方でも子ども扱い ですか」

口に溢れる葡萄を留めながら、呟くと
「朽木が喜ぶと思ったから、呼んだんだ」
なんて、言われてしまったら



隊長の指先も ほんの少し 葡萄色に染まっているのが、何だか嬉しくなってしまった















大人の余裕 浮竹隊長×子どもの自覚 どきどきルキア
喀血・失神しない まともな(?)浮竹隊長も書けるものですね…!(浮竹隊長を一体何だと…)




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