―遠い昔
鳥を飼っていたことがあった
父と母が存命であった頃
何処からか 私へと贈られたもののひとつであった
だが、私はかかわりをもつことを躊躇った
そして、その鳥は
私に触れられることもなく
私の声を聞くこともなく
いつのまにか その籠から姿を消した
空籠
目を開ければ、腕のなかには確かに やわらかくあたたかな体温があり
耳を澄ませば、規則正しい眠りの息づかいが聞こえる
触れ合う肌越しに、微かに伝わってくる鼓動を確かめたあと
私はそっと床を抜け出した
まだ陽が昇るには早い時間で、部屋のなかは薄暗く
間着を整えてから、畳の感覚と空気の流れで寝間の入口へと足を進める
襖を閉めようと引手に指を掛けたとき、布団がちいさく動いて
それに包まれている白い肌が、僅かにみえ
ぴくり と一瞬 痙攣した指でその光景を遮断した
進
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