「おはようございます 白哉様」

寝間の隣の部屋には、日常(いつも)どおり 既に清家が着替えの用意とともに控えていて
私が着替えをしているあいだ 家、客人などに関する連絡事項を述べていく

「任せる」
「承知いたしました―…、」
確認のやりとりが済んだ清家の視線が ふ と、寝間の方へと向けられる


「…確か、宿直勤務と聞いている 起きてくるまで誰も立ち入らせるな」
「御意」
「…」


何も聞かず、何も見ようとはしない

たとえ傍に鮮やかな振袖が掛かった衣桁があっても
明らかに私のものではない香の薫りが其処にあっても

此処が私の自室ではなくとも

それが この従者の是とするところなのか あるいは……今の私には判らない


死覇装を身に付け終えると、再度 寝間へとつながる襖へ目をやってから 其の場を後にする
早朝のまだ音の少ない空気のなか 僅かに、妙な波紋が心にひろがっていった








「おはようございます隊長! 早速なんですが―」
六番隊隊舎に着いた早々、恋次が紙の束を抱えて執務室に現れた

換気にと窓を開けると、恋次は「隊長…寒くないんスか?」と大きく身震いをしながら、執務机の上に白い山をつくっている

冬の空気は清んでいて、嫌いではない
これから年の瀬へと向けて、一層 忙しい日常がやってくるが

何年も何十年も、何度も繰り返される永遠にひとしい時間の流れ

この時点では、ただ そう考えていた




昼も過ぎると 机の上の大方 片付き、ふ と執務室に面した庭へと出た

 もう 起きた頃であろうか―…
見上げた空は白く、首元の銀白風花紗を引き上げる

いつからか こうした瞬間にあれのことを考えることが多くなった
肌で触れた体温 伝わってくる鼓動 聞こえてくる吐息
あの感触が時間とともに 消えていく

「―…っ、」
掌を握り締め、抱えていた感情を振り払う



息の白が、空の白へと混ざっていくのを見届けてから執務室へと戻る


今夜は、天気が崩れると そう聞いていた










  



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