翌日、白哉は十三番隊隊舎の廊下を歩いていた。


まだ隊務には復帰せず 傷を癒して下さい と、恋次 またその他の部下に言われ、その気遣いを受け取っておいた。

現に霊力の回復状態は、万全とは言えなかった。




処の所、ルキアは隊務が忙しく屋敷にはあまり居なかった。


黒崎 一護から聞いた事もさながら、白哉は只、ルキアに会いたいと思っていた。

『粥の礼も、言わねばならぬ…』
そう考えながら廊下の角を曲がると、目的の人は居た。



「…ルキア」

黒髪がさらりと肩を流れ、振り向いた瞳がゆっくりと見開かれる。

白哉が動くより先に、ルキアは早足で近づいて来た。

「―兄様!何故此方に!?御身体の具合は未だ―! ……すみませぬ、余計な事を…」

長年の白哉に対するぎこちなさは、そう簡単に取り除けるはずもなく、ルキアは途中で口をつぐみ、俯いてしまった。



「……心配させてすまない」

ふわりと白哉が纏う香の薫りがルキアの鼻先を擽った。

ルキアが伏せた目を上げると、白哉が屈んで自分を見上げていた。

「に、兄様!いけませぬ!!
 兄様の様な方が、私などに膝を折るなんて!!」

「しかしルキア…」
『…黒崎 一護め…全く効果が無いようだが…?』と内心焦りながら、ルキアの頬に手を添え、優しくこちらに向かせる。

目線を合わせた瞬間、ルキアは顔を真っ赤にして、また俯いてしまった。

手に熱を感じる。


「…あ、あの…あの兄様」

「…ルキア…」


何とも言い難い空気が、二人の間に流れた時―


「やぁ、白哉!朽木!何してるんだ!?」

「浮竹隊長!」
「…浮竹」

顔色は悪いが笑顔は爽やかな、十三番隊隊長 浮竹十四郎がにこにこと二人に近づいてきた。

「何だよ白哉、怖い顔して……!どうした朽木、熱でもあるのか?顔が赤いぞ?調子悪いなら早退して休めよ!」

「い、いえ!今すぐ隊務に戻ります! 兄様、隊長、失礼します!」
そう言うと、ルキアは慌ただしく二人に御辞儀をし、廊下を駆けていった。



「…浮竹が早退する方が良いのではないか?」

ルキアの頬に沿わせていた掌を見つめながら、白哉は小さく毒を吐いた。

「何だ?朽木と喧嘩でもしたか?」
と呑気に白髪男は言う。

「…兄には関係な「でも『喧嘩するほど仲が良い』って言うからな!ウチの兄弟もしょっちゅうやってるぞ!」



「…今、何と?」
「へ…?」

いきなり白哉に凄まれ、『何か気に障る事言ったかな?』と困惑したように頭を掻きながら、何十年も顔を合わせてきた目の前の青年の事を今更ながら、自分はまだまだ理解出来ていなかったのかもしれない と思うのは、もう少し後の話になる。




兄妹の かたち といふもの 2