「只今戻りました」


ルキアが朽木家に戻ってくると、迎えに出た使用人達が、大変申し訳なさそうな面持ちで居る。


「…どうかしたのですか?」と不審に思い聞いてみると、彼女達は顔を見合せ、一人がぽそぽそと話しだした。


「…非常に申し訳ないのですが、今日のお菓子が…無くなったのです」

「…え?今日は確か白玉餡蜜だと…今朝、こちらに届いたと…」
「はい…調理場の棚に置いておいたのですが、いつの間にか…」
「そんな…」


ルキアの落胆は大きかった。

だって、白玉を楽しみに帰ってきたというのに…



「―どうかしたのか」

落胆の空気に澄んだ声音が響いた。


皆が一斉に振り向くと、其処には朽木家当主の姿があった。

ルキアを除き、全員が頭を下げた。


「何かあったのか?このような所で揃って」


問うてくる義兄にルキアは駄目元で話すことに決めた。

「兄様、白玉が…」
「それなら私が食した」


「「……………え…」」


呆然となった一同をそのままに、当主は静かに去っていった。


「―兄様…白玉…」

長く続く廊下に、ルキアの声がぽつりと響いた。





『………予想と違う』


白哉はあれから自室に戻り、ルキアの反応を今か今かと待ち続けたが、当のルキアは部屋を訪れる気配も無く。

辺りは日が暮れ、灯りを持った使用人が夕餉の用意が出来た事を告げに来るまで、文机の前で置物の様にじっとしていたのだった。


結局、慣れぬ白玉餡蜜を食べた為に胸焼けがしていた事と、考えすぎて食欲も無くなった為に、白哉は夕餉の席に現れなかった。




兄妹の かたち といふもの 3