「兄様、少し宜しいでしょうか?」

ルキアが白哉の部屋を訪れたのは、その日の夜の事。


書き物をしていた手を止め、義妹に向き直ると、彼女は着物の袖をぎゅっと握る。

「どうかしたのか?」
と問い掛けてやると、ようやく此方を真直ぐ見て、口を開いた。


「明日の夜、会って頂きたい者がおります」


眩暈が…しそうだった。


「…それは?」

「…一護、黒崎 一護です」

声が出ない

言葉に詰まる


「―どういった用件だ?」


言わないで欲しかった

ルキアとの関係を考えあぐねているこんな時に



「一護が…そのっ、私との交際について…兄様にも理解頂きたく…お時間を頂けないでしょうか?」
頬を紅く染め、ルキアは白哉の反応を確かめながら言葉を並べていく



自分は今、どんな顔をしているのだろう

やはりこのような状況でも、いつも通り眉一本動かさずに居るのだろう


ぐるぐると深みに堕ちていく思考の中、ルキアを下がらせた。






「…恋次、黒崎一護がルキアに交際を申し込んだ事を知っているか?」

次の日、執務室に「おはようございます、隊長」と挨拶と書類を持ってきた恋次にいつもの様に素っ気なく「ああ」と返すこともせず、白哉の一言目はそれだった。

「!隊長、何で知ってるんスか?」
驚きながら尋ねる恋次の様子に僅かに眉を動かし、白哉は続ける。
「今夜、黒崎一護が挨拶に来ると、昨夜 ルキアが私に申してきた」
「そうなんですか ルキア、隊長に話したんスね…」

どうやら以前から知っていたようだ。
それはそれで複雑な気になる話ではある。
しかし、平静を顔に貼り付けたまま白哉は恋次を見た。

「お前はどう思っている?」

確か恋次はルキアを好いていたはずだ。それ故、この前の戦いでは白哉に刀を向けた。


白哉の質問に少しの間考え、恋次は窓の外に視線を向けながら答えた。

「一護っスか?…処刑を止めにこっちに乗り込んでくるなんてそう簡単に出来るもんじゃない。認めたくねえけど結構いい奴ですよ あいつ。ルキアがいいなら俺もいいかなと思ったんです」

恋次の声音は穏やかだった。


「………そうか…」

視線は書類からあげず、捺印の手も止めずに白哉は息と共に相槌を打った。


「…隊長」
「何だ」
「判子捺す場所 違ってます」

「…―もういい、下がれ恋次」


執務室にひとりになった白哉は窓を開けた。

風が吹き込み、執務机の上の書類が舞い上がり落ちる

床の木目を隠すように、白が降り積もっていく

だが今の白哉には そんなことはどうでもよかった。




兄妹の かたち といふもの 5