寝所は外の暑さを感じさせない程風通しが良く、適度な涼しさが保たれていた
几帳が風に遊ばれて、さらさらと畳を撫でている


その向こうで、白哉は寝具に体を横たえていた

「…」

ルキアが静かに傍に腰を下ろしても、眠りが深いのか閉じられた瞼は動かない

白哉の額の上の手拭いをそっと取ると、ルキアは少しの間 眠っている義兄をみつめた


綺麗で、強い、孤高の義兄(ひと)

それはルキアの憧れでもある―でも、


「…兄様…私は……」


ぽつり と呟くと、白哉の眉間に僅かに皺が寄ったので
ルキアは慌てて冷えた手拭いを額にのせた





喉が掠れてとても不快だ
それに全身を じっとり とした空気が包み込んでいる様な…


何かを探るように手を伸ばすと、やわらかくあたたかいものに触れた



「……」
はっきりと覚醒し、自分の状況を冷静に把握する
額の上には絞りが緩い所為で、若干水を含み過ぎた手拭いがのっかっていた


そして、先程夢現に触れたものは、此処に入ることを禁じた義妹であった

白哉の膝に掛かるか否かの微妙な位置に頭を預け、寄り添うような格好で寝息をたてている
どうやら看病しながら眠りにさそわれてしまったらしい


「……ルキア」

掠れた声は口先で空気に溶け、少女の耳には届かない


おそらく、ルキアが起きていたら、言いつけを破ったことに対して小言のひとつは口から出てしまっていたであろう―しかし、


「…………―礼を言う」

黒髪の流れにそって手を滑らす



ふれた瞬間に感じた やすらぎ のようなもの


素直になれず遠ざけたそれは、一番傍にいてほしかったもの


自分から何かを求めるというのが苦手だからこそ
この娘の時にみせるこうした我儘がとても愛おしいと感じるのかもしれない









傍に畳んであった羽織をルキアに掛け、彼女のあたたかみを近くに感じながら
白哉は今まで以上に深く、心地好い眠りにさそわれていった






『夏風邪はしすこんがひく』という新たな言回しの誕生です(…)!
ルキアに「兄様いけず」と言わせてひとりにまにましてみたり、
ルキアが起きていないときにだけ弱々なむっつり兄様だったり、
想いすれ違いな白ルキが好き!!な気持ちを詰め込みました(笑)。

こんな素敵提案を投下して下さった方に そして、読んで下さった方に、此処から感謝をこめて 有難うございます!


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