『…疲れた』

夕闇が直ぐ其処まで迫る中、家路を急ぐ少女が居た。

普段の闇に紛れる死覇装ではなく、藤波の文様が美しい辻ヶ花染めの淡い紫色の訪問着を纏っていた。


「―あァ、何や、ルキアちゃんやないの」

ひぃやりとした風が項を撫でた。


『…あぁ、何故此奴と逢ってしまうのか…』

―そう嫌悪感を顕にしながら、ゆっくりと振り向く。


「―今お帰りですか、市丸隊長」

夕闇で一層、不気味になった笑みを貼りつけた男が居た。

「いやぁ、疲れた帰り道にこんな別嬪サンに逢ってボクは幸せやなぁ〜 なぁ、ちょーっと付き合うてくれへん?」
「折角ですが、早く帰らないと家の者が…「心配せぇへんよ」

「…え」

…―いつもそうだ。この男は私に目隠しをする。


ツメタイイエ、ツメタイヘヤ、ツメタイショクジ、ヒトリボッチ―
シンパイシテクレナイ…ダレモ…ワタシノコトナンテ―


「せやから、な、ボクと一緒に行こ」

「…そう…ですね、誰も…私の事なんて…」


―気が付くと、市丸隊長に手を引かれていた。



「まぁ飲み」


そう言って茶を出された。

「いただきます。あの、ここは…」
湯呑みに口を付けながら聞くと

「ン〜、ボクん家。ゆっくりしてってエエよ〜」
と、呑気に言ってのける。

―冗談じゃない。お茶をいただいたらさっさと帰ろう。と一気に飲み干した。


「せっかちやね、ルキアちゃんは」

ぞわり…と後ろから頬をなぞられた。

「!!!?」

いつもなら「何をするのだ!!」「やめろ!!」と彼女は抗議するだろう。

頬をなぞられた事は勿論、声が出ない事、身体が動かない事にルキアは双方の目を見開いていた。