雪が地を潤す水となり、萌え出た黄みがかった緑がやわらかな季節となった
その日は見回りも兼ねて、山菜採りに少し遠出をした
小春日和というよりも、やや日差しが強い日であったが
明後日あたりにも 白哉兄様が此方へ来られるということで、心が騒がしく落ち着かなかった所為でもある
あの日から三月−…
吹雪の夜 冷えた朝 雨や曇りの日などは、ひとり ということを突き付けられ−傍にぬくもりがないという あの 虚無感におそわれることも、時折 あった
「我慢が出来ぬなど−浅ましいことだ…」
月にに一度 文で言葉は交わしていたけれど
やはり それだけでは足りぬ−と己の欲深さと弱さが身体じゅうの細胞をざわめかせていた
ちいさな塩むすびの昼餉をすませ、そろそろ家へ戻ろうとした とき、
鈍い 痛みが下腹部を一瞬 掠めた
「−?」
感じた違和に立ち止まったものの、特にその痛みが続くようでもなかったので、構わず帰路への歩みをすすめた
…しかし
「−っ…」
家がちいさく見えたあたりから、冷や汗が滲み出てきた
心臓の鼓動が、痛み始めた下腹部の違和感と共鳴して響く
心なしか吐き気も胸のあたりを重くしているようで、それでも 気にしないように と
何とか玄関まで辿り着いた
「ぅ…痛、」
上がり框に身体を横たえて、大きく息を吐く
今はこれ以上、部屋の奥には行けそうにもなかった
食中りであろうか−…なんて ぼんやりと考えてみたところで痛みは治まらず、
横になっているのに眩暈が襲ってきて、視界が揺れる
その現象を振り切ろうと、固く目を閉じて開いた その先に、
青白く、細く、ちいさな足と緋色の着物が映って ぎくり とする
何故か、頭が重くて上げられなくて 確認は出来ないけれど
誰だか わかってしまった
啜り泣くような、だがしかし 微かな笑い声のようなものが上から聞こえる−…
「緋真…ねえさ、ま」
血の気がひくとは、こういうことを云うのだろうか
頭から寒気が襲ってきたと思うと、今まで重たかった下腹部から何かが流れた
「え…」
下肢に伸ばした手を見て、私は言葉を失う
私の手は、まるで何かの罪に塗れたかのように 赤黒く染まっていた
戻
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