「−−、」
涙が、またひとつ 頬を流れる
それを受ける白哉兄様の指は、濡れていないところがないほどで


躯は軋む音をたて、布団から起き上がることが出来ず
だから、発つ兄様を見送ることも出来ない

「すぐに…文を送る……」
白哉兄様は静かに仰った −僅かに目を伏せ、眉を歪ませながら

 ああ、困らせたくないのに−…
おおきな手を口元に引き寄せて、そっと接吻をすると
さらり と長い黒髪が私の肩に散って、頬から唇へと口づけが贈られる
「…兄様」
くすぐったさに、微笑めば
ようやく 安心した表情をみせて下さった


「…−私は、後悔せぬ」
長い接吻のあと、兄様は静かにまっすぐ私の目をみながら告げた

「……」
こみあげるものに、言葉はかたちにならず
私が何度も頷くと、兄様は目を細め 立ち上がった

「ルキア−」

ずっと
ずっと、追い続けた背が
今は此方を向いて、私の名を呼んで、やわらかな表情をみせて下さっている
「お気をつけて…」
「−ああ」
兄様は、一歩 進む度に振り向いて その度に、私は涙を流して
戸が閉まってしまうまで、私はまばたきするのも忘れていた






昨日から眠っていなかった為、気づけば眠りに落ちていた
目を開けると やはり、白哉兄様の姿は無く−…

また 目の奥がつんと痛くなって、ゆっくりと身体を起こせば
下肢に違和感があり、夢では無く 現であったのだ と実感する

そして、現であると感じれば感じるほど、今の状況に私は再び 手で顔を覆った
「−っ幸せなのに、どうして…」

 涙が とまらなかった










約束どおり、白哉兄様からの文は数日後の荷の日に届いた

身体への心配と、次への…大まかな予定といった内容ではあったが、私は指で文面を辿りながら 兄様の感触を感じようとする

寂しい 淋しい さみしい…
あふれる想いを返事に書こうとするのに、文字が また 涙で滲んでなかなか進まぬ

「何て−我儘で欲深いのだ…私は……」

だって ほら、もうあと七年が待てなくなっている
今すぐにでも、朽木の邸へ−白哉兄様のもとへかえりたいと思ってしまっている己に、口元は自嘲するように歪む

その夜は、文を抱えて眠った










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