「どうしたんだ?…これは、」
「…、」
仄暗い書庫でも、はっきりと分かる 手首の痣
問いへの答えを返せずにいると、私の腕を掴む浮竹隊長の手に力がこもる
「朽木」
「…何処かで打ちつけたのだと、」
「嘘を吐くな」
「……」
「あいつか…?」
「いいえ…っ、!」
私の片手で持っていた書物が数冊が大きな音をたてて床に落ちる
やさしく背中を 子どもをあやすように大きな手が触れて、
自分が浮竹隊長に抱きしめられていると気付いた
ひとの腕というのは、こんなにあたたかいものであっただろうか…?と
恐るおそる その腕に触れようとしたが、突然 暗闇に差し込んだ光にそれは妨げられた
「兄、さま…」
「何を、していた」
「別に 何も」
訝しい視線を向けながら問う兄様に、穏やかな答えを返したのは浮竹隊長だった
「本が、崩れてしまってな」
私から身体を離し、落ちている本を拾い上げる
「“何も”」
兄様は、そう浮竹隊長の言葉を繰り返し、此方に視線を向けるけれど、
私は、何故か後ろめたい気が喉元にこみ上げてきて、顔を上げることが出来ない
「あー、朽木 量が多いから手伝ってくれないか? 白哉、この十五冊ほど借りていくぞ」
浮竹隊長はいつもと変わらない口調で、私に二冊の書物を渡し 隊舎へ持って行くように頼まれた
兄様の横を礼をして通り過ぎるも 息が苦しくて、浮竹隊長が兄様に何かを話しているのさえ聞こえず 場を去るのに必死で―…
「ただ蟷螂のように、獲物を足で捕らえるだけでは甘いんだよ…白哉」
蝶は 静かな蜘蛛の巣には気付かず…
誘い込むように、気付かぬうちに糸で絡めて
“やさしさ”という毒で抜け出せないようにしないと
モット?
モドル?