「…寒い」

どんより といった表現が相応しい重く垂れ込めた空からは今にも雪が降ってきそうだった。




「おはようございます」
雨乾堂の戸の向こうに告げると、言葉ではなく咳き込むのが聞こえた。

慌てて中に入ると、文机に寄り掛かる様にして浮竹隊長はいた。

「…ごほっ、おはよう朽木」

そう言ってにこり と笑いかけられる…が、顔色は良くなかった。




乾燥した空気に沸騰した茶瓶から出る湯気が滲んでいく。
冷えていた指先が じんわり…と薄桃色に染まっていくのを見て、手と手を揉み合わせた。


「今日は寒いな」
「そうですね…っくしゅ…」
「何だ、風邪か?」
浮竹隊長は着ていた羽織を脱ごうとしたので
「駄目です!私なら大丈夫ですから、浮竹隊長こそ風邪をひいていらっしゃるのに温かくなさって下さい!!」
「…そこまで必死に拒否するなよ…」

しょんぼりとした声音に私は小さく「すみませぬ、…有難うございます」と告げた。


「風邪はひいてくれるなよ。朽木が元気じゃないと色々と困る」
元通りの笑顔で髪を くしゃりと撫でられた。


その時 くん、と薫ったのはいつもの漢方薬の匂いではなく、
確かめる様に空気を吸えば、爽やかな酸っぱさが僅かに鼻を擽る。


「ああ、そうだ あれを」
ふらり と隊長は立ち上がって、部屋の隅の棚から小さな包みを出した。

両掌に収まる小さな包みからは、先程嗅いだ薫りが ほんのり 漂う。

浮竹隊長は こっくり 頷き、私は膝の上で包みを開いた。