「……」
浮竹隊長は表情を曇らせて、何を言うべきか 探しておられるようにみえた
外で風が吹いている
障子戸が小刻みに音をたてた
「…白哉は、」
隊長の短い問い掛けが、私の肩を ひくり と揺らす
「いえ…、兄様には お話しておりません 私が 決めたことです」
「そうか…、いや―わかった 考えておく」
「…有難う、ございます」
再び訪れる沈黙は、重く、深く…
噛みしめていた唇が痺れている
短いあいだの筈なのに、足は感覚が麻痺したかのようだ
「では、私は隊務に戻ります」
「ああ、…朽木、」
「はい」
「無理、してくれるな」
いたわりが滲んだ口調と、表情
どうして、この人はこんなに優しいのだろう
自分の保身の為に、我儘な私を総て許してくれているような気がして堪らなくなる
「…はい」
失礼しました と告げ、廊下に出ると風は強く、冷たかった
「天候が崩れてきているのか…」
星ひとつ無い空を見上げ、隊長が呟いた
夜勤明けの陽の光は凶器だ 強く目を瞑りながら、身体を伸ばす
水溜りにうつる私は少し腫れぼったい
そのうしろに、昨夜の荒れた空模様が嘘のような、晴れた空が広がっていた
「あ? 何だ、ルキアじゃねーか」
後方へと視線を移すと、声の主は幼馴染であった
「恋次」
「夜勤明けか?お疲れさん」
奴の手にはしっかり封じられた機密文書らしきもの
六番隊の隊章である椿の印が押されている
「十三番隊に用事か?」
「おう、浮竹隊長にな ―あ そうだルキア 今度皆で飯でも食いにいかねーか?」
「皆?」
「乱菊さんと檜佐木先輩とそれから吉良、あと一角さんと射場さんも都合が合えば来るらしい」
「……」
「あーオメーがああいう賑やかな場が苦手だってのは知ってっから、無理なら」
「行ってみようかと、思う」
そう私が言うと、恋次は驚いた顔をした
今迄そういった類の誘いは殆ど断っていたのだから
「誘ったくせに何だその反応は! さっさと仕事に戻れ 副隊長殿!!」
脇腹を小突くと、ちいさく呻き声が空気に溶ける
逃げていると嗤えばいい
無様だと、意気地無しだと
それでも、
もがいて 足掻いて 鳥は鳥籠から飛び立つのだ
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