刀を振るい続ける ただ、それは虚しく空を斬るだけだけれど

それは必死に空を目指そうとする鳥の羽音に似て




隊舎裏修行場でひとり 自主鍛錬に励む

どのくらい時間が経ったのか 気付けばいつのまにか陽が傾き、
夕焼けの色が闇と混ざり合い、溶けていくところだった



「おーい朽木!」
「あ、はい!」
見上げると、浮竹隊長が大きく手を振っている

修行場の切り立った崖を急いで駆け上がると、隊長は手拭いを手渡して下さった


「あまり根を詰め過ぎるなよ」
穏やかな表情、落ち着かせてくれる声
浮竹隊長はいつもやさしい それは『安定』というやさしさなのだろう

「大丈夫です、それより どうされたのですか?」
尋ねると、その表情は申し訳無さそうなものに変わった
「すまないんだが、先日頼んだ書類は出来上がったか? 提出が早まってしまってな」
「はい、あ!」

思い出した、朽木の邸の自室の文机の上に置いたままであったことを

「すみません、邸に置いて来てしまって―今から取りに行って来ます!」
「え、あーそれは…すまない」
「いえ、手拭い 有難うございます」
洗ってお返ししようと 手拭いを畳んで懐に入れていると、
「無理 してくれるなよ」
今度は心配の色を滲ませた言葉が、私の胸に 落ちる

「…大丈夫です」


そのとき 浮竹隊長越しに見た空の色は、私のように『不安定』な色であった












「―これで全部、か 急がねば」

書類の枚数を数え確認を終える少しのあいだの筈なのに、窓の外はすっかり陽が落ちてしまっていた
月は出ておらず、冷え冷えとした闇が庭に、部屋のなかに漂っている

灯りを持って行った方が良いだろうか と思案しながら、障子戸を閉め灯台の灯を吹き消した


かたん


ちいさな音がして、その方向へ私はふり向く




空気が震えたのは“誰”の動揺が原因か


「に、い…さま」


部屋の入り口に 白哉兄様が立っていた






  


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