―夢のおわり 現のはじまり…




まだ夜中か見分けも付かぬ早朝に、目が覚めた

外が騒がしいわけでも無く、悪い夢をみたからでも無い
ただ、何だか 肌寒かったのだ

傍らの火鉢に火をおこし、部屋にその温もりが広がっても、
何故か 身体のちいさな震えはおさまらなかった


起床には未だ早い時間であったが、死覇装に着替え 髪に付いた寝癖を直す為に鏡に向かった、時


「ちょっと、待て!」
浮竹隊長の珍しく焦りを含んだ声が聞こえた と思ったら、
音を立てる間も無く、戸が開かれた


突然 冷たい外気が部屋のなかへ入り込んできたが、私はそれに身震いすることさえ忘れてしまう


「ルキア」

目の前の現実に、固まるしか他無かったからだ









「白哉!俺の話を―」
「今 用が有るのは兄では無い」


容赦無く浮竹隊長の言葉を切り棄てる兄様は、尋常では無かった

銀白風花紗はおろか、隊長羽織も身に付けていない死覇装姿
牽星箝は無く、其の黒髪はやや乱れてさえいた



「話が、ある」
其の言葉と共に、兄様は一歩 部屋へ踏み入った


空気は緊張しているのに、あぁ 蟲の知らせ とはこういうことをいうのか などと私は妙に落ち着いて思う

「話すまでも、兄様」

「私が 望んだのです」

自分でも信じられないことだが、私は“笑って”いた
口が微笑みを形作っていた


「遠征部隊への配属の件―…」
「はい 私自ら、配属を希望しました」
「何故」
「限界だと 思ったからです」
「限界…?」
私の言葉を繰り返す兄様の目が、理解出来ないというふうに細められる

「これ以上、兄様 貴方の御傍にはいられません」

張り詰めた部屋のなかに、自分の声は他人のもののように響いた

「どんなに貴方に触れられようと、共寝をしようと―私は、緋真姉様にはなれません」


私が告げた言葉に、息を呑む反応をみせたのは兄様では無かった 浮竹隊長が驚きを隠せないように、私と兄様をみていた



「―そうか」
納得の色も、反対の色も無い ひと言が放たれた そして、兄様は一度も此方を振り向かずに部屋を出て行った
その後を浮竹隊長が追いかけたが、私はその場で身体が石になったようにただ立ち尽くしていた







  


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