珍しく夢をみた

みたことのある少年がうずくまって 泣いて いた
それは紛れも無く、私 で

何故 泣いているのかわからなかったが
其処には 淋しさ が漂っていたように 思う



―気付くと、見慣れた筈の 天井
己の寝間であるのに ひどく居心地が悪く感じるのは、先程みた夢の余韻であったのか

夜中 何度も目を覚まし、風がうなる音と冷えた空気に布団を引き寄せた
睡眠時間はいつもと変わらぬのに、身体が重く感じた






「白哉!あのな…」

定例の隊首会後、一番隊隊舎廊下で浮竹に呼び止められた
いつもなら 歩きながら聞き流すといった状態であるが、今日は様子にどこか違和感を覚えた
「…何だ」
「あー…、…いや…」
ひとり 顎に手を当てながら、なかなかはっきりしない様子のあと
「…いや、やっぱりいいんだ お疲れさん」
そう言うと、向こうで待っていた京楽と去っていく

気付くと、じわり じわりと手甲に冷たさが染みこんでいた 昨夜の雨で、通路の欄干が濡れていた









「―ルキア様はお帰りが遅くなられるとのことでございます」

邸の門をくぐったところで、清家が最初に告げた連絡事項
―夜勤明けではなかったのか そんな考えを過らせながら、自室へと向かう
「先程まで、休まれておられたのですが」
「…そうか」
「阿散井様方と御一緒だと、承っております」
「…」

「、白哉様?」
着替えの手を止めた私に、家令は首を傾げながら問うてくる
「湯浴みの用意を 夕餉は後とする」
「御意」

着物を脱ぐたびに、体温が奪われて冷気が肌を刺した
今夜も 冷えるのだろう






床へ身を横たえるが、なかなか眠りはおとずれなかった
時刻も構わず、それならば と文机に書物を開くが、文字を追うのが億劫であった



仕方無く 部屋を後にし、ひっそりとした廊下をすすむ

まだルキアは帰っておらず―その部屋の灯りは無く、辺りはひいやりとしている
引手に手を伸ばし やめた

それから、私は仏間へと向かった




菊の花に彩られ、薄い硝子板越しに微笑む 亡き妻 緋真―ルキアの 姉
私に、妹を託し そして儚く逝ってしまった 願いを遺して


「…お前は、私を憎むか? それとも、嘲笑うか…?」
私の問い掛けに、蝋燭の炎が揺らいでいた












 


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