「に、い…さま」
暗闇のなかの紫の瞳は、私の姿を捉えると大きく揺れた
何を、している 今まで、何処に居た
問おうとしたことは、浅い呼吸とともに空気にとける
「…っ、急いで おりますので」
その言葉だけを残し 横をすり抜けていく娘の腕を掴むこと無く、私の手は力無くおちた
廊下を駆けて行く足音がいつまでも耳に残って消えない
部屋の温度が急激に下がっていくようで、この部屋の主はもういないのだと ただ、そう思った
「白哉様、―ルキア様のことなのですが…」
あれから、ルキアは邸には帰っていないようであった
やや表情に影を落とした清家が云うには、隊務が忙しくなった為だと
任せているというものの、浮竹から何も言ってこないことと
当の本人―ルキアに事情を聞けず仕舞いのこの状況に、私はひとり 眉をしかめるしかなかった
そして
「朝早くに失礼します 隊長!!これ―、」
ようやく調理場に灯りが点った寅の刻の朽木の邸に、宿直勤務であった筈の恋次が持ってきたのは
ルキアの 遠征部隊配属認可通知であった
「隊長、」
「白哉様、これは―…」
清家と恋次が書面と私を交互に見るのに応えずに、私は死覇装を身に付け、まだ暗い外へと出て行った
十三番隊隊舎へと続く道を足早に進む
細い 細い 糸が切れるように
手の器の水が いつまでも其処には無いように
いったいどこから この関係は、修復できないところまで歪んでいたのであろう―…
ただ、あの娘が遠くへ行ってしまうということを 文面で表されても全く実感がもてないほどに、私はまだ甘い考えのなかにいた
突然、このような早朝に現れた私をみて
浮竹を呼ぼうとした十三番隊士が何か言っているのをも聞かず、霊圧を探り廊下を進んだ
「白哉!」
前方の曲がり角から浮竹が焦った形相で出て来た 先程の隊士が慌てて呼びにでも行ったのであろう
構わず進もうとすると、制止の意思がこもった手で腕を掴まれた
「おい!ちょっと待て白哉!!」
「きけぬ」
掴まれた腕を振り払うと、浮竹が怯む
それを振り返らずに、辿っていた霊圧が居る部屋の戸を開けた
まるで、戸が開けられるとわかっていたかのように
ルキアは、静かに 此方を真っ直ぐ向いて其処に立っていた
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