いつも そうであった
私があの娘に接することを躊躇っているあいだに
今、目の前にいる男 そして、その副官であった 今は亡き志波家の―…
容易く、あれ から言葉を引き出し、表情を変えさせる
そして、あの娘の総てを理解ったように振舞うのだ
今もそうだ
「―兄に何が理解る」
「白哉…」
「…」
情けない 悔しい 腹立たしい―…様々な漣が唇を震わし、私から言葉を奪っていく
「…白哉、俺からみていて最近の朽木は―何というかひどく不安定だった
でも、悩んで 悩んで…ようやくもがく術をみつけたようなんだ
…これは繊細なことだから、あまり俺が…第三者がどうこう言えることじゃないけれど―…」
哀しげに目を伏せながら、浮竹は静かに言葉をきった
「お前が、兄として朽木を想うのなら…今の朽木をとめる権利は白哉には無いと俺は思う
……もし、そうじゃ無いのであれば―俺はお前のしようとすることを尊重しようと考えているよ」
「…何が、言いたい」
そう問うと 漂っていた深刻な雰囲気を取り払うかのように、いつもの穏やか過ぎる表情に戻った男は
「朽木は大人だよ―俺達が思っている以上に」とだけ残して、部屋を出て行った
「―っ、」
行き場の無い衝動に、無意識に爪が食い込んだ拳が畳に鈍い音をたてる
兄として、あの娘を守る―そう約束した筈であった
『ですからどうか あの子には 白哉様を兄と呼ばせていただきたいのです』
記憶の深くに残る 大切な約束の言葉
だが現はどうだ
己の弱さ故に、いつも いつのまにかこの手を離れていってしまっている
一時、掟を守らんとする為に ルキアの命をこの手で―消そうとまで考えた
だが あれ以来、私は怖れるようになった
あの娘が、その命が、私のまえから消えてしまうことを
―儚く 花が散るように、逝ってしまった緋真のように
だから、その姿がみえなくなると 訳も無く狼狽し
その無事を、その体温を 呼吸を 鼓動を確かめずにはいられず
ルキアを義妹とした経緯 総てを話し、ようやく、あの娘が尸魂界に―朽木家を居場所とすることを決めた というのに
兄として有るまじき行動で、あの娘との関係を歪ませるほど
私はとても 弱くなっている
今回の件を知ったとき
裏切られた―そう ふと、思った
だが、本当は
寝間着の帯に手をかける度に
その肌に手を触れる度に
私がずっと、ルキアを裏切り続けていたのだ
―いつのまにやら芽生えた情は、“義兄”の理性をも揺るがすほどに―
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