ひたすら 足をすすめた
いつのまにか
何処からか 一面の銀世界へと変わり、
時折、暗く重い雲が空低くたれこめ 強い風に雪が混じり、吹雪となり
私の視界を奪い、歩みを重くした
夜は廃屋、洞穴 雪と風がしのげるのであれば、其処で過ごした
そのような状況にいると、これ以上進んではならぬような
拒まれているような印象を受け、何度も 立ち止まった
発って三日目の朝
私の膝上まで雪は降り積もっていたが、陽を隠す雲はひとつもなく青空が広がっていた
流石に 雪に足をとられながらの道程と、休んではいるものの吹雪で体力は確かに減ってきていた
峠をのぼり、ひとつ 大きく息を吐いて―眺めた前方に、真っ白な平野のなかに ちいさく 家が見えた
近付くと、真っ白だと思われたなかにもところどころに木が植わる景色に既視感を覚えた
そう まるで虚圏のようであった
あのときも
虚圏に足を踏み入れた瞬間に、弱まりつつある霊圧を辿り道を急いだ
今も 確かに、この先に居る存在に歩調が速くなる
…―雪の坂道を登るときよりも、息があがる 呼吸がし難い
雪に陽の光が反射し はっきりしなかった古い家屋のかたちが、一歩 一歩近付くたびに輪郭をはっきりとあらわして
私の目は、縁に座るちいさな姿をうつした
触れるのを躊躇ってしまうほどの 儚い空間が、其処にあった
少し傾いた姿勢のまわりで遊ぶのは鳥であろうか
朽木の邸の、あの空籠のなかの世界は此処にあったのか と、おおきく息を呑んだ
その空気の揺れが伝ったのか、ちいさな影が次々と飛び立っていく
それに対し 反射的に立ち上がり、構えの体勢とったその姿は三年前と変わらず
私も、ルキアも動かずに 久々に触れた双方の気配を探っては確かめ合っていた
そして私は、これ以上待つことが出来ずに歩みを再開させる
慎重さをまとった一歩はとても重く、しかし幻が現へとかたちを変えるように 目の前の事象は確実なものとなり、心は逸る
「息災か」
いつかの文に書いたままの 三文字に
「白哉兄様」
―そう 久し過ぎた肉声で返事が届く
一層 光が跳ねたと思うと、ルキアが此方へと歩いて来る
私は思わず立ち止まり、その光景を瞳でしっかりととらえた
戻(空籠へ) 進
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