僅かに 泣き出しそうな表情の娘に

「…ルキア」
そう、名を呼べば
瞳に光が揺蕩って、立ち止まった



三年経っても 変わらぬ、ちいさな姿
此方を戸惑いながら、まっすぐ眼差しを向けてくる



「何故…、何故 此方へ」
此方も この娘に目をじっと向けていた為に、その ふいの問いに目を伏せた

此処へ来たのは私にとっても突然で
 年が過ぎる度、私の世界はとまりつつあったから
そして、
 籠の鳥がいなくなった故―…

いや、それはもっと単純で
「返らない文が気になった」
あの、届いたか 否かもわからぬ 名を記していない三文字の文の返事を、私はずっと待っていたのだと 言葉にして自覚する
ルキアは大きく目を瞠って
「―、忙しくて…」とちいさな声で答えた
それが嘘だとわかっていた―だが しかし、それを責めるのは憚られた
「いや…別に構わぬ」という私の言葉で、ルキアは僅かに俯いていた顔を上げ、あの文は無かったことになる

そんな 遠い時間を越えてのやりとりより、今の現でふたり 向き合うことに集中しようとしていた





ただ、ふたりのあいだに横たわる 透明な空間をあと少し―
そんな私の考えを遮るように、晴れた空から輝きながら雪が舞い始める
振り切るように 歩き出そうとすると、目の前を取り巻く空気が一変した

「そのままで…! どうか、兄様」
拒絶であった
叫ぶような声と、両腕を此方へ伸ばし、私を拒んでいる
―やはり…、近付くことすら許されぬのか
ルキアが顔を歪めながら拒絶の言葉を次々に口にするたびに、ちりちりと胸の内が焼かれる想いがした



―だが、

感情より、行動が先に動いた
私の手は、その瞳から涙が伝う頬へと
「―!」
驚いて瞬いた目からまた、新たな雫が指を濡らす

「すまぬ」
「……っ、」

払われると恐れた手は、皮膚と皮膚の境界線を失くしてしまうほどに、ぴったりと この娘の頬に添う

それは 実感
今 彼女に触れているという事実、そして これだけでも私に安堵をもたらす温もり


「すまなかった ルキア…」
許される気は無い

だが、何も言わずにちいさな手が私のそれに重ねられたとき
近付くことを赦された気がした






  


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