*白哉とルキア*

時刻:弥生 二十四日
   午の中刻
差出:ルキア
題:無題
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桜が咲きました。




  ‐‐‐終‐‐‐



時刻:弥生 二十四日
   午の下刻
差出:白哉兄様
題:無題
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早いな

此方はまだ咲いていない


  ‐‐‐終‐‐‐



時刻:弥生 二十四日
   午の下刻
差出:ルキア
題:無題
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それならお花見が間に合い
そうですね。


  ‐‐‐終‐‐‐



時刻:弥生 二十四日
   未の上刻
差出:白哉兄様
題:無題
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案外 今週末あたりに咲い
て、すぐ散ってしまうやもし
れぬ

此処のところ温かい日和が
続いておる故


  ‐‐‐終‐‐‐



時刻:弥生 二十四日
   未の中刻
差出:ルキア
題:無題
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それはうかうかしてはいら
れませんね…
なるべく早く其方へ戻れる
ように努めます。








そんなことを聞くと、落ち
着かなくなってしまいました


もぅ 意地が悪いです…



  ‐‐‐終‐‐‐



 現代版 桜だより








「出掛けるか」
そのひと言が きっかけであった

そして、今 ふたり並んでちいさな青いベンチに座って、まだ来ないバスを待っている
目の前には長閑な田畑が広がっていた

ぽかぽかと春の陽の光が頭から足先まで降り注ぎ、此処が縁側ならばきっと眠りに誘われてしまうだろう

「…来ないですね バス」
微かな眠りを振り払うように、隣の白哉兄様に話しかける
「やはり、車をだすべきだったな…」
苦い表情で腕時計に視線を落とす兄様に慌てて言葉を付け足す
「でも、たまにはこうしてのんびり…可笑しい言い方かもしれませんが、歯痒い思いをするのも…」
「…」
「あ、兄様の運転も心地好いですが…!」
これは事実
兄様の運転するクアトロポルテの助手席は護られているような、私が安心できる空間のひとつだ

でも今日は、公共交通機関を使って出掛けてみようという趣向になった
そして、いきあたりばったりに電車に乗り、郊外へと足をのばし 今に至る

「あ、紋白蝶…」
近くにキャベツ畑があるのだろうか…ふわふわと飛ぶ白いそれを目で追っていると、ふわり と嗅ぎ慣れた香りが頬を擽った
「……ぇ」
驚いたのと、大きな声を出してはいけないと思ったのとあって、こくり と息を呑み込んだ

その方向に向こうにも、互いの髪の毛がさらさらと音をたてあう


「…ふふっ」
ゆっくりと時間がながれていって、他には誰も居なくて、ただ青い空と田畑が目の前に広がって、あたたかい空気で満たされている

「良いですね こういうのも」

多分 この長閑さにやられたのだ
バスが来ないのも、
兄様が珍しく しかも外でこうやって私に頭を預けることも、
私がひとつひとつのことにこんなに嬉しく感じるのも

「…そうだな…」
少し間が空いてから 静かな相槌が返ってきた

もう少し このままで
バスがやって来るであろう方向の道に、そうお願いをして
私もゆるゆると瞳を閉じた


 春の日の過ごし方








*誰かとルキア*


ダイヤルボタンを押す指の動きは速く慣れたもので
空で覚えている番号を淀み無く紡ぐ


決して相手の応対の声が聞かれることのない通話口に耳を傾けながら
私は綺麗に飾り付けられた箱を見て、唇を軽く噛むのだ




「渡したいものがあるから時間をもらえないだろうか」

そうひと言 告げる勇気も無く、そもそも、尸魂界と現世とを直接繋ぐ連絡手段は簡単に使用できるものではなく、目の前にあるのは繋がるはずの無い“ただの”通信機器で
私が今 やっている行動は“予行演習”より無意味無益なものだ





…けれど そう自分自身がもどかしく感じることでさえ、甘く思えてくるなんて





 チョコレートの魔法がかかった日は やはり特別 ということ…?