*浮竹とルキア*

からからから…と矢車が軽快な音をたてて回り、
ゆらゆらと緑の風の中を蒼と緋が雨乾堂の窓から鮮やかに泳いでいる

「どうされたのですか?この鯉幟」

報告書を渡しながら尋ねると、浮竹隊長はとても嬉しそうに
「この間現世へ行った奴からもらったんだ
二つあるなら日番谷隊長にも、と思ったんだがな
凄いんだぞ、竿の部分にラムネ菓子が入っているんだ」
などと言う

「子ども扱いはやめろ」と青筋を浮かべる日番谷隊長が過り、私は苦笑いをこぼす

「まるで子どもの様ですね、浮竹隊長」
僅かにからかいをこめて言うと、
「なにを朽木、男はいつまでたっても子どもだよ」
などとにこやかに言われてしまった





 五月晴れにおよぐ


ときどきこのひとが自分より年上だということを忘れてしまうのは、この好ましい純粋さ故なのだと






*誰かとルキア*


「『バレンタインデー』など誰が始めたのだ…」


今の私の気持ちそのものの様に灰色く濁った空に呟きを放っても、答えは返ってくるはずもなく。

しかし、目を下に向けると手の中の コレ が視界に入ってしまうので、反応の無い空に睨みを利かせてみた。


「…どうしよう―」


ぽつり、と出てしまった自分の不安そうな声に小さく身を震わせた。

…―全く、『らしく』ない。



「―、よし」


ひとつ 息を吐き出し、綺麗な包みを胸に抱え直して、目的の人物が居る場所へ向かうことにした。


虚(ホロウ)と対峙した時より緊張いっぱいの臨戦態勢なんて笑える。



握り締めていた所為で、チョコレートも調度良い くちどけの温度 になっているだろう



 くちどけは想いの温度

―それで、誰が彼女のチョコを受け取ったの…?






*一護とルキア*


手に吹き掛ける息はとても白く
ほんのり温かさを感じた手はとても紅い

「何だ、手袋忘れたのか?」
頬に手を当てたまま見上げると、一護が眉間に皺を きゅう と寄せて此方を見ていた。
「ああ…というか片方無くしてな、使い物にならなくなったのだ」

みるみるうちに手に移し取った熱も無くなっていく

「仕方ねーな、ほらっ冷ておまえの手」
一護の体温と一緒に手に手袋を渡された。

「一護が寒くなるだろう」
「いいよ、俺は」
「いや、良くない」
「俺が良いって言ってんだ」
「私の方こそ大丈夫だ!」
「そんな冷たい手して全然大丈夫じゃねーよ!人の好意素直に受け取れ!」

「…すまぬ、有難う」
「おう、どういたしまして」

確かに手は痛くなる程冷たくなっていて、もらった温もりは心地好かった。

が、

「サイズが合ってないな」
「指が使えぬ」

「…、ちょっと此処で待ってろ!」
「おい、一護!?何処へ行くのだ!!」
「すぐ戻る!」
一護はそう言うと、あっという間に人混みに消えて、私は溜息をつきつつ傍にあった花壇の縁の煉瓦に腰掛けた。

街中はそこら中に明かりが灯り、夜ということを忘れそうなくらい人が行き交っている。

一護の手袋に包まれた自分の手を動かしてみても、手袋の中でもぞもぞと動くだけで少し笑いが込み上げる。


「―ほらこれ」
見つめていた手袋を遮るように、赤と緑のリボンが結ばれた袋が渡された。
「一護!」
走ってきたのか、吐く息が更に白い。

「開けてみろよ」
そう促されてリボンを解いた。

「…手袋」
まるで兎の尻尾のようなふわふわが付いた真っ白な手袋だった。

「やっぱり俺も手袋無いと寒いからな」
一護は私の手から自分の手袋を取って、私に背中を向けてしまった。

「…有難う、温かいな」
「おう」

そんな二人の傍では大きなクリスマスツリーが輝いていた。





 Merry White Xmas !!