光のなかに佇む兄様は、まるで幻のようであった
向かう私は足早に―雪に足をとられつつも、まっすぐに其の姿を見つめて進む
「…ルキア」
久々に 自分の名を呼び掛けられ、どう答えれば良いのか迷いが生じて立ち止まる
一定の距離を保ったまま、もうこれ以上 近づけないのではないかと錯覚を起こすような空間が生まれた
牽星箝の無い髪が、風に舞うのが 綺麗だ そう思った
変わらない 静けさを湛えた瞳も、人形のように整った表情も
記憶のなかの白哉兄様と、今 目の前の現を、ひとつずつ ひとつずつ 重ね合わせていく
真央霊術院で初めて御会いしたときの姿と
死覇装に隊長羽織を身に付けた 六番隊隊長としての姿と
矜持に満ちた 朽木家当主としての姿と
―そして、このひとから逃げた あの最後の日の姿と
「何故…、何故 此方へ」
責めるのではなく、ただ純粋に疑問であった
兄様は、少し目を伏せて
「返らない文が気になった」
と、私が先程 気にしていたことに触れる
このひとは いつも、予感と一緒にやってくるのだな などと思った
「―、忙しくて…」
「いや…別に構わぬ」
わかりきった嘘だ 浮竹隊長や恋次とは何通ものやりとりがあったのだから
ふたりとも 矛盾だらけの会話であった それに構っていられないくらい 意識は別にあった
視界に風花が舞い始めた
それが合図だったのか、白哉兄様が一歩を踏み出す
私は咄嗟に、両腕を前に伸ばし構えた
「そのままで…! どうか、兄様」
「―、」
私の突然の大声に、そのままの姿勢で動きが止まった
「どうか…これ以上 近付かれては、駄目なのです―私は、」
頑なに、拒絶の意志を前面に示す 伸ばした手に、動揺の混じった空気がちりちりと痛かった
必死で、あの 十三番隊舎でのやりとりの空気を過去から手繰り寄せようとする
「心を決める為に、ひとりで此処へ来たのです… お願い ですから」
これ以上、掻き乱さないで―…
その言葉は、頬を突然覆ったてのひらに遮られた
冷たい 氷よりも冷たいそれに、私の涙が伝って滑る
「―!」
「すまぬ」
「……っ、」
身を退こうとする気を失くしてしまうくらい、懐かしさがその手から私へと伝わる
本当のことは、自分(わたし)が一番よくわかっていた
この三年で何が変わって、何が変われなかったか
見て、触れて、声を聴いただけで揺らぐこの想いが何よりの証拠だった
何枚も何枚も、綴られ破られた 出せない返事が何よりの証拠だった
「すまなかった ルキア…」
僅かに涙の滲んでいるような、深い声
それに答えたいと 狂おしいほどの想いに駆られて、兄様の手に自分の手を添えた
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