はじまりの夜は、藍染隊長達の大逆の騒乱の後
白哉兄様が四番隊の総合救護詰所から退院されて、朽木家へ戻って来られたその夜であった

冷たい空気が頬を撫でて、襖が開いたのだと気付いた 部屋は灯りが無くて、よくは見えなかったのだけれど
布団のなかでじっとしていると、その傍まで気配は近付いてきて

私の頭にそっと触れた 大きな手―兄様であった
髪の流れに沿って 私の口元までやってきたそれは、数秒 動きを止めてから離れていった

私は、襖が再び閉められるまで 動けなかった




兄様にとって それ は何の意味をもつのか、私にはまったくわからなかったのだけれど
その日から毎晩、私の部屋の襖は 開いて、閉まった







変化が起きたのは“すべて”が落ち着いて、朽木の邸に戻って来た夜であった

珍しく 深い眠りにおちていた私は、肌に何かが擦れる感覚に起こされた
寝起きの目に映ったのは、消していた筈の灯りと―私の寝間着の衿に手をかける兄様の姿

一瞬 何が起きているのかわからなくて、
次に理解したのは、脚と胸元が肌蹴た己の状態


 何故 何故 何故―…
声がでない代わりに涙がこぼれる
私のからだを震わせているのは、羞恥ではなく恐怖だった

そんな私をみて兄様は、ちいさく「すまぬ」と告げて、
すべての肌があらわになった私は、兄様に包まれた


其処には、接吻も
愛撫も
情交の欠片も
欲望の香りも無く


ただ 私は白哉兄様に 抱かれて いた






そして、その 儀式 はあの三年前までずっと ずっと
私と兄様が朽木の邸にいる限り、夜がくる限り、繰り返された


やはり、私は身代わりなのか と
模造品だから、抱けぬのか と
その腕のなかでめぐる考えは、私を眠りから引き離して
ただ、自分のものではないやすらかな寝息と規則正しい鼓動を聞いて夜を過ごした





あのとき
浮竹隊長の前で、白哉兄様に言い放ったことは事実だ

私が緋真姉様にとって代わることなど、このさきどれほど時が過ぎても不可能なことだろう
勿論 そのようなことを 朽木家へ養子としてはいったときから覚悟はしていたけれど、望んでいたわけではない

白哉兄様に触れられるたびに、心の奥底で育っていく ひとりの女が抱いた恋情の念がただ、怖かった

























  


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